翔編 龍然

前回、致命的なダメージにはならなかったと言っても自動小銃の銃弾を何十発も浴びたはずにも拘わらず戻ってきたということは、そのマンティアン自身、あの時の痛みや恐怖を克服したということなのかもしれない。


そして、リベンジに訪れたということだろうか。


それが事実かどうかはさて置いて、今のこいつは、確実に、これまで見てきたマンティアンの中では最強だろう。めいかくでさえ、こいつに勝てるイメージが俺の中に湧いてこない。


めい相手ならほぼ互角だったビアンカでさえ、素手で勝てるかどうか……


昔、非凡な才覚を持ちクマ相手であれば無敵とさえ言われたベテラン猟師が、地元の原住民から<山の神>と恐れられる巨大クマと遭遇。三度戦いを挑むも仕留められず、最後には逆襲されてなすすべなく悲惨な最期を迎えつつ、いつしか思い上がっていた自身の愚かさを悔い、<山の神>への畏怖を抱くという映画を見たことあったんだが、それを思い出してしまった。


その猟師も、普通のクマ相手なら、負けるビジョンが見えなかった。銃の腕もそうだし目の前にクマが迫っても微動だにせず確実に心臓を撃ち抜く胆力も常人離れした、明らかに<人間としてのスペック>からは逸脱した存在だった。しかし、そんな猟師も、<クマとしてのスペック>から逸脱した怪物じみたクマの前には無力だったんだ。


まあ、これはあくまでフィクションだったんだが、実際に、時に常識の通用しないとんでもないのが現れることはあったとも聞く。つまり、今回のはそういうことなんだろうな。


あの不定形生物由来の怪物のような生物だけでなく、ここに普通にいる生き物達の中にも、怪物じみたのがいるってのを改めて教えられたよ。


この台地の麓には確かに鵺竜こうりゅうと俺が呼んでる、地球にかつていたという恐竜によく似た途方もない巨大生物が住んでたりするものの、この台地の上だと、気温や大気の濃度の関係か、鵺竜こうりゅう自体が小型化する方向に進化の舵を切ったらしく、何となくこう、油断とまではいかないにせよ、ちょっと枠にハマった考え方になってたのかもしれない。


ヤバいのは、例の不定形生物由来のだけってな。


そんな俺の頭をぶん殴るかのごとく現れた超マンティアン。


俺はそいつのことを、<龍然りゅうぜん>名付けることにした。いつもの如く頭にぱっと浮かんだのを付けただけだが、我ながら今回のはヒットだと思った。


いや、そんなことを喜んでる場合じゃない。


さすがにアリゼもドラゼも、負けることはないだろう。龍然りゅうぜんがどれほど強くても、あくまで生物の範疇にはあるからな。


しかし、今のままでは、勝ち切れるかどうかも、正直言って分からない。


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