翔編 製鉄

ワイバーン一型による物資輸送は始まったものの、取り敢えずアリニドラニ村が集落としての体裁を整えられるまでは、俺も頻繁に顔を出すつもりだ。


それに、アリニドラニ村では、高炉を作って製鉄を始めるつもりだし、そのための資材の運搬はさすがに積載重量四十キロのワイバーン一型だけでは無理がある。小物類はそっちで運ぶとしても、当分は俺のローバーでの物資輸送も併用だな。


村の中心に作った倉庫をさらに拡充し、高炉建造のための資材を保管する。


ちなみにまず作るのは、砂鉄から鉄を作る小型の高炉である。さすがに鉄鉱石を原料にするには本格的な採掘が必要だから、あくまで試験的なものだ。


正直、今の時点ではコーネリアス号に残された資材を流用することで間に合ってるから、単に、


『鉄を作るという概念を後世に残すため』


と言った方がいいかもしれない。ただ、


「現在の人間社会において<鉄>は、その九割が再資源化によって賄われています。また、非常に高効率で環境負荷が低いレルハートン式反応炉が主流ですね。


ですが、マスターがここで行おうとしているような形で砂鉄や鉄鉱石から純度の高い鉄を得るには、還元の工程が必要であり、アルミニウムやコークスを用いない場合ですと、大量の木炭を必要とします。これは、環境破壊や森林資源の枯渇といった大きな問題をもたらしたと記録にはあります。


かつての人類と同じ過ちを繰り返さないことが求められるでしょう」


とエレクシアが言うとおり、先人達がした失敗を教訓として活かせなければ、『人間は万物の霊長』など思い上がりが過ぎるというものだと俺も思う。


なので、ここで再現可能な方法で最も環境負荷の低いものを順次模索していかないといけないな。


なお、ある程度の量の鉄が確保できれば、後は再資源化で回していくというのが最も確実か。スクラップの鉄が手に入るなら、アミダ・リアクターが使える限り電気の心配は要らないから電気炉で簡単に製鉄できるわけだし。


ちなみに、エレクシアが言った<レルハートン式反応炉>というのは、二十七世紀頃にアンディ・レルハートン博士という人物が実用化に成功した、レルハーティウム664という鉱物をプラズマ化させ炉の温度を三千度まで瞬時に上げるという、俺自身、説明してても実は何のことかよく分かってない超すごい技術で作られた高炉なんだそうだ。


しかもこのレルハーティウム664、高温(千五百度以上)になるとものすごく酸素と結びつきやすくなるそうで、これで酸化した鉄を精製するんだとか。さらに酸素と結びついた酸化レルハーティウムも電気処理すると簡単に酸素と元のレルハーティウム664に戻るから、酸素を精製するにも使われるんだと。


化学ってすごいね。


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