翔編 中の世界 その4

久利生くりう達は、すぐさま周囲の木の枝や蔓植物を使って、簡単な武器を作ってみせた。<槍>と言うか<銛>と言うかという感じの武器だ。それを持って森に入っていく。全員が横一列に並び、扇状に歩き始め、決められた距離を進んだらその時点で引き返し、状況を報告。そして次はさらに奥まで進んで引き返し、やはり状況を報告するという方式だった。


すると、ビアンカとドリスはやはり女性だからか途中に生えていたらしい大きな植物の葉を使って、水着のような簡単な<服>を作り、着て帰ってきた。しかも他にも<服>が欲しい人のためにと持てるだけの葉を持って。


それでまず<服>が欲しい人のためにそれを用意することにした。


「君も」


シモーヌはそれほど急いでいなかったものの、レックスが彼女のためにと<服>を作ってくれた。それを身に着けると、不思議と精神が落ち着くのを感じた。やはり何も身に着けていないというのは人間にとっては不安になるものなのだと改めて実感する。ヌーディスト達は、あくまで<そういう場>であるから安心して生まれたままの姿になれるのだろうなとか、ちらりと考えてしまったりもした。


しかしそんな余談はさておいて、森には、彼女達の知らないものだったけどたくさんの果実が生っていて、いろんな動物も生息してて、水質も問題ない湖では魚も採れたから、食料については何も心配なかった。


未知の生物だったことで最初は<パッチテスト>などを行ったりほんの少量ずつ用心して食べるようにしてたものの、そうして実際に食べられるもの食べられないものが判明したりしたものの、それでも十分に生きていけるくらいに豊かな環境だというのはすぐに分かった。


だから皆で力を合わせて拠点を作り上げて、彼女達はそこで暮らし始めたんだ。


何一つ文明の利器がなかったことで確かに不便ではあったけれど、命の危険を感じるほどじゃなかった。




けれど、もしかするとそうやって順調すぎたことが逆に余計なことを考える余裕を生んでしまったのかもしれない。それによって、自分で自分を追い詰める者が出てしまったんだろう。


二ヶ月を過ぎた頃にメンバーの一人が精神に異常をきたして、


「もうイヤ! 何もしたくない! 何も食べたくない!!」


と言い出して。


「クラレス……」


彼女は、クラレスは、パートナーだった男性がいつまで待っても現れないことも併せて、追い詰められていったみたいだった。


そう。この時点で同じように<この世界>に現れたのは、レックスやシモーヌを合わせて三十一名。コーネリアス号乗員六十名のうちの約半数でしかなかったんだ。


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