翔編 中の世界 その3

『自分達はこの世界に転送された』


それが逆に、科学者としての割り切りを促したんだろうな。


そして二人の前には、続けて次々とコーネリアス号の乗員達が転送されてきた。当然のように全裸で。


これはもう、尋常な事態じゃないということは明らかだった。


この異常な事態に対して、レックスは論理的なアプローチを求めた。


久利生くりう、この状況、君はどう捉える?」


レックスのその問い掛けに、意識を取り戻した久利生くりうは、


「私は軍人だ。目の前の状況に対してどう対処するかは考えるが、全体像や背景について考察する権限は持たない」


久利生遥偉くりうとおいは、コーネリアス号の防衛を担当するために軍から出向してきた職業軍人だった。階級は少佐。自身の部隊を指揮する立場だからか、常に冷静で状況を正確に理解しようと心掛けているレックスとはどこか似た雰囲気を持つ人だった。


コーネリアス号の乗員達は惑星探査のプロとして選抜された人達だったから、基本的には選りすぐりの人材だった。目先のことで大きくうろたえたりはしない。たとえ全裸で放り出されたとしても。


別に<ヌーディスト>というわけではないけれど、様々な状況を想定した訓練を受け、かつどのような状況にも対応できることを求められていたから、そのくらいのことは対処できた。


……本来なら。


けれど、そんな彼らでもさすがに今回の異常な事態は受け止め切れなかったみたい。元々遭難したところに加えてこんな状況じゃ、無理もなかったのかもしれない。


「これからどうすりゃいいんだ……?」


その場に座り込んで頭を抱える者。


ただ呆然と景色を見詰める者。


ずっと泣きじゃくっている者もいた。


そんな中でも、レックスは冷静だった。


「とにかく、こうしていても始まらない。まずは手分けして拠点作りと周辺の捜索を行おう」


その言葉に、軍人の久利生くりうも、


「彼の言うとおりだ。悲観していても状況は好転しない。まずはできることをするべきだと私も思う。


なので、私と千里せんり、ビアンカ、ドリス、垣内、グレンの軍人チームは周辺を捜索し、危険がないかを確認。科学者・技術者チームは拠点作りをと思うのだが、どうだろう?」


レックスと久利生くりうの提案に、他のメンバーも承諾するしかなかった。


そうして手分けして、改めてサバイバルを始める。


けれど今度は、コーネリアス号もない。しかも全員、服さえ身に着けていない。ナイフ一本持っていない。


だから今度こそ本当に<身一つでサバイバル>って感じだった。


もっとも、それさえ、久利生くりう達軍人にとっては、<想定の範囲内>だそうだけれど。


本当に何一つないところからでさえ、生きる術を見つけ出していくそうだ。


彼らの存在はとても心強かったと思う。


でも、それが実際には<サバイバル>じゃないことに、彼女達はその後、気付かされることになる。


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