翔編 人生万事塞翁が馬

で、またいつものように、俺が一番、楼羅ろうらのことを引きずっていたと思う。


ひそか達が亡くなってから日課になってた墓参りも、改めて胸にきてしまうな……


すると、いつもは別に俺のことをかまったりもしないしんが、朝なのに何故か部屋から出てきて俺の頬に顔を寄せて、ペロッと舐めた。ネコ科の獣のそれによく似たすごくザラッとしたその感触が少し痛かったが、でも、しんの方からそんなことをしてくれたのが嬉しかった。


「もしかして、俺を慰めてくれてるのか……?」


問い掛けるが、もちろん彼女は応えてくれない。ただ真っ直ぐに俺を見詰めた後、ふい、と踵を返して新しくなった自分の部屋に帰っていった。


しんは、こうかんを産んだ時に死産で生まれてきたれんを食ってしまったりもした。けれどこれについては、後産で出てくる胎盤を食うようなものなんだろう。人間の思う<情>とかそういうのとはまったく別の、野生で生きる上での超合理的な習性だ。


ただ、そんなしんでも、もし、れんが一週間でも生きていて自分のおっぱいを飲んでくれてたりしたら、もしかするとまた違う様子を見せたのかもしれないな……


<たられば>言っても詮無いことなのは分かってるものの、ついそんなことを考えてしまうのも人間というものか。


ところで、しんと言えば、以前、痛んできた前の部屋が倒壊すると困るからと隣に新しい彼女のための部屋を作ってたんだが、新しすぎて気に入らなかったのかすぐには移ってくれなかったのが、元の部屋の床がいよいよたわんできたところで新しい部屋に自分から移ってくれてたんだ。で、元の部屋はすでに解体してある。


そんなしんをはじめ、正直、あらたほむらさいえいも、ほぼ同じ場所に暮らしていても、単に同じ場所を住処にしているというだけで馴れ合ってはくれない。


だが、俺はそれでいいと思ってる。元気に生きてくれてればそれだけでいい。


楼羅ろうらの件で改めてそう思ったよ。


俺と一緒に楼羅ろうらの死を悼んでくれたりしなくてもいい。物語を盛り上げるようなリアクションをしてくれなくてもいい。そんな都合よく振舞ってくれなくていいんだ。


この世ってのは、自分の思い通りになることなんて滅多にない。いつだって理不尽で冷酷で不条理だ。


でもな、むしろそれこそが<人生の醍醐味>ってやつなんじゃないかな。俺の妹のことにしたってそうだ。あの子がそんな風にして亡くなったから俺は惑星プラネットハンターになってここに来た。そうしてひそかに出逢って、じんに出逢って、ふくに出逢って、ように出逢って、子供達が生まれて、セシリアと出逢って、メイフェアと出逢って、シモーヌと出逢って、イレーネと出逢って、ビアンカと出逢ったんだ。


何がきっかけでどう転ぶかなんて、誰にも分からない。


だからこそ面白いんだろうし、出逢いを活かすかどうかは自分次第なんだって実感するよ。


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