翔編 回収

新暦〇〇三十一年七月二十三日。




楼羅ろうらの命は、わずか一週間余りで終わりを告げた。


何があったわけでもない。しょうが何かをしたわけでもない。ただ突然、鼓動が止まったんだ。


<乳幼児突然死症候群>


病院でなら、おそらくそういう病名が付くものだったんだろう。


医療が発達し、メイトギアが身近で救急対応も完璧な人間社会でなら滅多に死亡にまで至らないというのに……


本当に、こういうのはいつ誰に降りかかるか分からないものなんだな……


無論、ここでは死が隣り合わせであることは俺も重々承知してるし、しつこいくらいに自分自身に言い聞かせてもきた。他人が見たらきっと病的にも感じるくらいに。


けれど、そこまでやってもやっぱり割り切れないんだよな……


あの後、楼羅ろうらの遺体は、しょうに奪い返されてしまった。それからしょうは、もう完全にただの人形のようになってしまった楼羅ろうらを、何とか乳を含ませようとして自分の胸に押し当てたり、起こそうとして叩いたりもしていた。


死んだということを認めたくないんだろうな……


これは、サルの母親などにも時々見られる行動のようだ。パパニアンでもそういうことがあったのは確認されてる。ミイラ化した子供を連れている雌の姿がカメラに捉えられたりもしたんだ。


さすがに痛々しくて触れる気になれなかったんだが、自分の家族でそれを見ることになるとは……


しかも、楼羅ろうらが自力で掴まってくれないからしょうは空を飛ぶこともできず、巣の周りで獲物を捕らえるしかなくなっていた。


だが、わざわざ天敵であるアクシーズの巣の近くまで来てくれる獲物はそんなに多くないから、しょうは数日に一回くらいしか餌にありつけなくなってもいる。


だから、その状態が一ヶ月くらい続いた時、俺も、


「……いっそ、楼羅ろうらを奪い取ってやった方が諦めもつくのかもしれないな……」


と口にする。


それに対してシモーヌも、


「そうですね……」


と……


もう、しょうが明らかに痩せ細っていたんだ。


「エレクシア、すまん……嫌な役目だが、お前にしか頼めない……」


俺の言葉に、エレクシアは、


「マスター。私はロボットです。人間にとって好ましくない役回りを引き受けるのはロボットの役目です。負い目に感じる必要はありません。マスターはただ命じればよいのです。


楼羅ろうらを回収してこい』


と」


普段と変わらず淡々とした様子で、彼女はそう言ってくれた。


そして俺は命じる。


「エレクシア。楼羅ろうらの遺体を回収してくれ。ただし、しょうは傷付けないように」


「承知しました」


そう言ってエレクシアが向かった時、しかし、彼女のカメラに映ったしょうの姿には、どこにも楼羅ろうらの姿がなかった。手にも、足にも、掴んでない。それまでは寝ている間も離さなかったというのに……


その後、周囲を捜索したエレクシアによって、ただの干物のようになった楼羅ろうらの遺体が木の枝に引っかかっていたのが発見されたのだった……


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