翔編 マンティアン

アクシーズは、密林においては食物連鎖ピラミッドの頂点近くに存在する種だったが、それでもマンティアンにとっては獲物のひとつに過ぎなかった。


空に逃げられるとさすがに手も足もでなくても、樹上であれば十中八九マンティアンが勝つ。マンティアンに致命的なダメージを与えられる攻撃を、アクシーズはほとんど持たないからだ。


他の動物に対しては比類なき攻撃力を持つ鋭い爪も、マンティアンの天然の装甲には歯が立たない。


最初の頃は首筋が弱点だとも思っていたが、いや、実際に他の部分に比べれば確かに柔らかいんだが、それでも戦闘態勢に入って緊張すれば強度は桁違いに跳ね上がり、アクシーズの爪を弾き返す。


唯一、目だけはそこまでじゃないので、目に爪を突き立ててそこから脳にまでいたることができれば勝機もあるかもしれない。が、マンティアンの方もそれは承知している。そんな易々と攻撃を受けたりはしない。


となれば、アクシーズが助かるにはとにかく空に飛び上がって距離をとるしかないというのが現実だった。


そんな天敵であるマンティアンが、りょう鈴良れいらのいるアリゼドラゼ村に近付いているんだ。


たぶん、狙いはアリゼとドラゼだと思う。空に逃げることもできるアクシーズをわざわざ狙う必要もないし。そしてマンティアンは動くものなら何でも獲物として狙う習性もある。


だが、アリゼとドラゼを狙う分には何の心配もない。警護用のドラゼは元より、アリゼでも、基本的にはマンティアンよりも強い。


……はずだ。少なくとも設計上はマンティアンにも負けない程度の能力は持たせてあるはず。


単体での攻撃力はしれてるから武器を使わずに勝つことは難しくても、負けることはないはずなんだ。


これは、それを実証する機会なのかもしれない。


「……大丈夫だよね、お父さん…」


あかりが心配そうに訊いてくる。


「ああ、たぶん、そのはずだ」


だが、この時はもう日が暮れていたからか、そのマンティアンは村にまでは入ってこなかった。


木の上で首を庇うように両手を巻きつけて体を丸め、寝る。じんめいじょうで散々見た姿だ。


「どうやら今日は大丈夫みたいだな」


と緊張感が解ける。


だがこうなると、明日、俺がアリゼドラゼ村に立ち寄る時には気を付けないといけないかもしれないな。


もっとも、俺にはエレクシアがついているし、いざとなればローバーから下りなければマンティアンくらいは脅威にはならない。


物資を届ける上では、まあ、支障はないか。


それよりは、今は村の外の木に巣を作ってるりょうが少し心配だな。


「ドラゼ、警戒を頼む」


タブレット越しに俺はドラゼにそう命令する。


するとドラゼは、黙って敬礼を返してくれたのだった。


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