翔編 自分の力で
新しい集落候補地に着いて、早速、井戸掘りを始める。
と言うか、始めてもらう。
実際に作業するのは、井戸掘りマシンというロボットだしな。
俺はただそれを見守るだけだ。<現場責任者>として。
ロボットが普及して、危険な作業、面倒臭い作業、等のほとんどを任せてしまえるようになった人間は、それらの作業の責任者としての役目が主な仕事になっているとも言える。危険な作業をしてるのはロボットなので万が一事故が起こったとしても人的被害は滅多に出ないものの、それでも<責任>というのはなくならないしな。
とは言え、俺の場合は、今のところ責任を負う相手もいないか。
などと考えているうちにも、井戸掘りマシンは粛々と作業を進めてくれて、掘削マシンが掘った穴を基準にして井戸を作り始めていた。
井戸用の穴を掘りつつ、その穴を同時に樹脂でコーティングし、崩れないようにしてくれる。
昔は大変な作業だったとも聞くが、今じゃ人間はただ見守るしかない。
正直、本当の<サバイバル>を生き延びた人間なんかは、一体、どうやって生き延びられたんだろうと思う。
俺なんて、メイトギアやアミダ・リアクターをはじめとした科学技術におんぶに抱っこだもんな。サバイバルらしいサバイバルなんてしてない。
だから偉そうなことも言えない。
ただただ恵まれた自分の状況に感謝するだけだ。俺は生かされている。その事実に胸が熱くなる。
何気なくエレクシアを見ると、彼女は、
「どうされました?」
と問い掛けてくる。
「いや、別にどうもしないんだが、なんとなくお前の顔が見たくなってな」
正直に応えると、
「そうですか。私の顔がお役に立つのでしたら、どうぞいくらでも」
などと素っ気ない返事が返ってくる。いつもの冷淡な表情のままで。
「ホントお前は変わらないな」
当たり前と言えばあまりに当たり前のことが口に出て、思わず苦笑い。
なんてこともありながらも、エレクシアと共にマシンの状態を確認する。作業自体は順調だ。マシンの状態にも問題はない。
だから今日のところはマシンに任せて帰ることにする。掘削マシンの時と同じく、母艦ドローンを通じてモニターして、必要とあれば適宜指示を与えられるようにしておきつつ。
ただ、荒涼とした光景の中をローバーで進むと、多くの便利なロボットや道具に助けられていながらも、世界の大きさに比べればそれさえ微々たるものなんだなという実感もある。
俺がかつて暮らしていた人間社会が、どれほど多くの年月と無数の人間の努力と研鑽の上に成り立っていたのかも思い知らされる。
帰路の途中で
『あいつらは自分の力で生きてるんだな……』
とも思ったのだった。
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