走・凱編 命令

ビアンカが陣取ったのは、かいを負傷させたレオンの群れが仮の営巣地としている辺りとの中間地点だった。衝突したことでかいの側の戦力を向こうも把握しただろう。だから体制を整え再び侵攻してくる可能性が最も高いと考えてのことだった。


他のレオンの群れやオオカミ竜オオカミの群れについては、ドローンで監視し、ドーベルマンDK-aを配して警戒に当たる。


りんの群れの方にはドライツェンシリーズの試作機とドーベルマンDK-a二機が警護に当たった。


位置的にはそう達とコーネリアス号の向こう側になるので、危険度は若干下がるはずだ。


なお、ビアンカが装備している自動小銃には、実弾が装填されている。メイトギアであればレオンやオオカミ竜オオカミが束になってもまともに傷を負わせることさえできないほどの戦力差があるので敢えて殺傷する必要もないが、いくら強くても生物であるビアンカでは、確実に殺しにくるであろう<敵>に対して手加減するだけの余裕はない。


だから今回については向こうが引き下がってくれないのなら命を奪うこともやむなしと俺も判断した。これは生存競争としての戦いだ。一方的な虐殺には当たらない。


と、自分に言い聞かせる。


それが詭弁に過ぎないことは分かっていても、自分の命が優先されるというのもむしろ自然の摂理のはずだ。


確実に助ける方法があるならその為の努力はするものの、そうでないのなら、たとえ犠牲になるのが何人だろうが、自分と自分の仲間の命を優先する。


そこは譲れない。


だがその上で、


「ビアンカ、無理はしなくていい。もちろんそう達を守ってほしいのは正直なところだが、その為に君が犠牲になることも俺は望んでない。軍人である君ならば分かってるはずだが、いざとなれば自分の命を優先してくれ。


君が自分の命を優先したことでどんな結果になるとしても、俺は君を責めない。


これは、群れの長である俺の覚悟であり<命令>だ。


生きてくれ、ビアンカ」


と告げる。


そんな俺に対しては彼女は、


「了解…!」


力強く応えてくれた。


彼女がその命令を遵守するかどうかは、俺には分からない。しかし彼女を信頼して任せた以上は、それがどういう結果を招いても俺の責任だ。


無論、全員が無事であることを祈ってはいるが。


そして願わくば、向こうのレオンの群れやオオカミ竜オオカミの群れも、何とか生き延びてほしい。


それが叶わぬ願いだとしても、願うだけならいいだろう?


善だの悪だの、そんな薄っぺらい二元論など<命の現実>の前には何の意味もない。


『死にたくない』と願うことも、


『死なせたくない』と願うことも、


どちらも人間の気持ちとして存在して当然なんだ。その中で自分にできることをする。


大切なのはそれによって出た結果から目を背けないことだと俺は思う。


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