走・凱編 怠け者

りんの話を挟むことになったが、次はたくについて触れたいと思う。


たくは、レオンとしてはおそらく珍しい方だと思うが、実におっとりとした性格をしている。さすがに狩りの時なんかにはそれなりに凶暴性も見せるものの、どうやらあまり得意ではないようだ。


そのせいもあって、普段はとにかく寝てばかりいる。レオンは基本的に夜行性なので昼間はダラダラしてるように見えることは多いが日が暮れる頃からは活動的にもなる。ただし、たくの場合は、狩りに出るのも嫌々というのが見えていた。


仲間に促されてようやく動き出す感じだな。しかも積極的に動かないので、わざと獲物に対して気配を掴ませ逃げさせることで、逃げ遅れた個体を仲間が襲うという形で役割分担していたようだ。たくのような、言ってしまえば<怠け者>でもちゃんと役割はあるというのが面白い。


アリやハチの群れでは、ほとんど働かない個体が一定の割合で出るという。しかも、その怠けている個体を取り除くと、それまで働いていた個体が何故か怠けだすということも起こるらしい。これについてはまだ研究の段階だそうなのではっきりしたことが解明されていない、と言うか、あまり重要視されていないらしく熱心に研究されていないと言った方がいいらしい。


その研究が進むことにより、人間の中にもとにかく怠け癖のヒドイのがいるということについてその原因を突き止める役にも立ちそうだと俺なんかは思ったりするんだが、そちらについてはロボットが普及したことでさほど問題にならなくなったことも影響しているようだ。


人間が必死になって働かなくてもロボットでほとんどが補えるから、今、人間社会での<仕事>は、あくまでも<自己実現>や<自己の確立>、つまり、


『社会における自分の存在意義を実感する』


ことを最大の目的としてするものになっているんだ。これは、以前にも触れたことだったかな。建前上は、


『ロボットを<従業員>として置くことは認められていない』


となってるものの、


『人間の従業員のサポート役として雑事一切をこなす』


のは認められているので、最大人間の従業員二人につきサポート用のロボット一体という比率ではあるものの、ほぼほぼ従業員のようにして仕事をこなしているから、例えば、


『<まともに仕事をしない怠け者>であっても取り敢えず二人雇っておけばそのサポート役として優秀なロボットを一体導入できる』


から、企業としては困らないそうだ。


そしてそれは、<社会に適合するのが困難な人間のリハビリ>としても機能しているという。


人間はロボットという科学技術によってその辺りに対処してるが、野生でも実はちゃんと役割分担してるんだなあ。


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