走・凱編 紹介

で、ビアンカのことだが、彼女はシモーヌのことも覚えていなかった。


「ビアンカっていうのが、私の名前ですか?」


と訊いてくるくらいだし。


「そうですね。あと、私も貴方も、姿こそは違いますが、由来は同じです」


そう言いながらシモーヌは、自身の腕に塗られたファンデーションを落とし、透明な腕を見せた。こうやって自分と同じだということを見せておくことで、ビアンカ・ラッセとしての記憶が戻った時に受けるであろうショックを少しでも和らげておこうと思ったそうだ。


ただ、今の時点でも、


「私、普通じゃないですよね……? シモーヌさんとも違う……」


そう言って不安そうにはしていたが。


とは言え、シモーヌは笑顔で、


「ここでは別に普通ですよ。あちらの二人はあらたうらら。パパニアンという種族です」


と言いながら、屋根の上から警戒しつつビアンカを見ていたあらたうららを紹介した。


「……二人は人間なのですか?」


「人間の遺伝子とこの惑星の現住生物とが合わさってできた種だと私達は推測しています。彼らも元々は、私やあなたと同じように透明な体を持って生まれた生き物が基になってるんでしょうね。


あまりに正体が不明なので敢えて名前は付けずに<不定形生物>と仮称している生物が落雷などの刺激を受けて決まった形をとるようになったのが、私やあなたであり、そして彼らの祖先でしょう」


ビアンカの問い掛けに、シモーヌは学者としての言い方で丁寧に説明した。今は理解できないとは思いつつも、回りくどい言い方をしていては変に誤解を招く可能性があるので、敢えてそのままだ。


するとビアンカも、戸惑いながらもシモーヌの話に耳を傾けていた。記憶はないのだが、ビアンカ・ラッセとしての経験が無意識に残っているんだろう。思ったよりは冷静だ。


ちなみに俺は、家の中に引っ込んで、音声だけ拾わせてもらっている。ビアンカがしきりに俺の存在を意識してる様子を見せたからな。


ひょっとしたら、シモーヌやメイトギア達のことは感覚的に理解してるのかもしれない。ただ、俺の方はビアンカ・ラッセとしても見覚えのない人間だからな。また、あらた達のことはあくまで<動物>という認識だと思われる。


「とにかく、ここにいれば安心です。私達はあなたを歓迎します。


なので、ここに住んでいる人達のことを紹介しますね」


シモーヌの言葉に合わせて、ひなたを抱いたひかりと、まどかを抱いたあかりが自分達の家から出てきた。じゅんは得体の知れない大きな獣であるビアンカを警戒してか家から出てこないが。


「彼女はひかりひかりが抱いているのが彼女の実子のひなた


こちらはあかり。血は繋がってませんが私の娘のように育ちました。彼女が抱いているのがまどかまどかはあなたと同じように密林で保護されました」


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