明編 幸い

めい様。あれは敵ではありません。私が対処します。ですのでめい様はお下がりください」


エレクシアはめいを地面に下ろしながらそう言った。口の構造のこともあり喋ることはできないめいも、ある程度は人間の言葉を理解してる。その上でエレクシアは、


「キキキ、キリキキリリ」


と、<マンティアンの言葉>でも話し掛けた。


するとめいは、そのまま本当に下がった。一瞬で姿が見えなくなる。


そしてその時にはもう、エレクシアはボクサー竜ボクサーを次々と蹴散らしていた。こちらも一瞬だ。一秒ちょっとの間に十数匹いた群れがすべて地面に転がる。


殺してはいない。気を失わせただけだ。力の差があまりにも圧倒的だからこその芸当だな。ビアンカを守れればそれでいいので、無闇に殺す必要もないし。


そしてビアンカの前に立ち、


「ビアンカ様。お迎えに上がりました。私はエレクシアYM10、マスターにあなたの保護を命じられたメイトギアです」


と告げた。


途端、ビアンカが、力が抜けたようにその場に座り込む。


その上で、


「私は……私は、誰……? どうしてこんな……」


縋るような目でエレクシアを見上げながら、ビアンカが言う。


それを聞いて俺も察してしまった。彼女はシモーヌの時以上に記憶が混乱しているんだ。人間としての意識はあるものの、自分が何者かは分かっていない。


ただ、メイトギアについては認識していると思われた。だから『お迎えに上がりました』と言われてホッとして、力が抜けてしまったのだろう。


「それについても説明いたします。まずは私についてきていただけますか?」


そう言って手を差し出したエレクシアに、ビアンカも手を伸ばしたのだった。




一方、エレクシアの介入によってその場を離れためいの方は、やや足を引きずるようにしながらも、自分の巣を目指して歩き始めた。今日のところは無理をせず休むことにしたのだろう。是非そうしてほしいと俺も思った。


加えて、せいの様子も気になったが、ドローンの映像で見る限りは無事のようだ。しかし母親があれだけの動きをしていながら振り落とされないとは、すごいものだな。しかも人間の子供だとあんな風に振り回されると今度は脳がやられる危険性もあるものの、それも平気らしい。小さくてもマンティアンはマンティアンということか。


とは言え、めいにとっても今回は災難だったな。彼女にしてみれば見慣れない危険な外敵が侵入してきたとして対処しただけだ。ことさらビアンカに対して害意があったわけじゃない。


だからめいせいもビアンカも無事だったことは、俺にとっても幸いだったよ。


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