明編 徒手格闘術

めいとビアンカとボクサー竜ボクサーによる三つ巴の戦い。


野性の厳しさを改めて見る思いだ。


めいは人間部分を弱点と見做したらしく執拗に狙うが、地面に足を着けると大きく見上げる形になり、一番の弱点と思しき<首>の部分には届かない。しかも人間部分の<脚>も、およそ人間のそれとは思えない速度で<蹴り>を繰り出してきて、めいの接近を許さない。


なので、めいとしては周囲の木を足場に飛び跳ねる形で<首>を狙うものの、体が空中にある間は地面に足を着けている時よりももちろん自由が利かなくなるので、彼女にとってもリスクの高い攻撃だった。


そしてビアンカはそんなめいに対して人間部分の<腕>も使って反撃を行う。


ヒト蜘蛛アラクネの場合、人間にも見える部分はそれ全体が<頭>であり、手足に見える部分は<触角>という形になる。ビアンカの場合も恐らくそれと同じだろう。しかし人間としての意識によるものか、手足の使い方がヒト蜘蛛アラクネよりも緻密にも思えた。


その上、明らかに徒手格闘術の類と思しき動きも見せる。


コーネリアス号の乗員達は、護身術として様々な格闘術も身に付けているという。実はシモーヌも、銃の方は『取り敢えず扱い方は知ってる』程度だが、その一方で軍隊式徒手格闘術は初段の腕前だそうなので、やっぱり俺が最弱なんだろうな。


などという余談は脇に置いて、ヒト蜘蛛アラクネに準じた身体能力による底上げもあってか、いつしかビアンカは人間部分だけでもめいと互角の戦いを繰り広げていた。


後で聞いた話によると、彼女はコーネリアス号の乗員の中でも防衛や威力偵察等の任務を担当してたそうで、元々一~二を争う戦闘のエキスパートだったらしい。そんなビアンカがヒト蜘蛛アラクネとしての身体能力を得たことでさらに人間を超えた戦闘力を発揮しているようだ。


それどころか、クモ(に似た)部分ではボクサー竜ボクサーの攻撃も退ける。このわずかの間に今の自分の体の使い方を完全に把握したのかもしれない。


これは並みのヒト蜘蛛アラクネよりも強いぞ。もしかするとばん以上かもしれない。


なんて感心してる場合じゃない……! このままじゃ逆にめいが危ないかも……


けれど、実を言えばここまでの戦いは、僅か数十秒の間でのこと。そしてこの三つ巴の戦いは、突然、終止符が打たれることとなった。


ビアンカが空中にあって自由が利かなかっためいの足を取り、そのまま関節を極めようとする。しかしめいの方も足を極められることもお構いなしでもう片方の足でビアンカの頭を狙って蹴りを繰り出そうとした。頑強な外皮に覆われたそれは、人間が棍棒で思い切り殴りかかるよりも威力がある筈だった。そんなものが頭に直撃すれば、さすがに今のビアンカでも……


―――――瞬間、それをほどいてめいの体を抱きかかえ、地面に降り立った者がいた。


「エレクシア!!」


俺は思わず声を上げる。


エレクシアだ。エレクシアが間に合ってくれたのだった。


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