明編 攻防

シミュレーション上では、やはり速度や小回りの点ではマンティアンの方が優勢だという結果が出ていて、ほぼ互角と言われても実際には一対一でならむしろマンティアンの方に分があると俺は思っていた。


だが、少なくともめいとビアンカのそれを見る限り、一概には言えないと改めて思い知らされてしまったな。


いくらめいの方がせいを胸にしがみつかせていることで若干パフォーマンスが低下しているというのがあっても、なにしろビアンカはまだ生まれて間もない、おそらく<実戦経験>などないはずの個体だ。しかもヒト蜘蛛アラクネと違って人間の感覚を持っているらしいクモ人間アラニーズだ。


単体でなら相当な強さがあるんじゃないのか? これで生き延びられなかったんだとしたら、どんだけ厳しいんだ、この世界は。


まあ、その辺りの理由については後ほど判明したんだが、今はとにかくこの二人の攻防だ。


あっさりとめいに殺されてしまうようなことがなかったのは良かったものの、こうなると今度はめいせいの方に危険があることになる。単純な力では、体長約三メートル、体重約二百キロの巨体を軽々と操るヒト蜘蛛アラクネの方が上だ。クモ人間アラニーズの能力がヒト蜘蛛アラクネに準ずるとすれば、当然、ビアンカにもそれだけの力があるだろう。


特に、太く頑丈な脚による一撃は、まともに食らえば装甲のような外皮はもちこたえられてもその衝撃で内臓が破壊される危険性がある。また、幼いせいだとそれこそ潰れてしまうだろう。


そこまでじゃなくても、めいの腕や脚が折られでもすれば、野生動物としては致命的だ。さっきの攻撃を受け止めたのも、上手くめいが受けてくれたから辛うじて無事だったようだ。まあ、万が一大きな傷を負ったとしてもその場合はエレクシアに救出してもらって光莉ひかり号の治療カプセルで治療することになるけどな。


だが、俺の心配をよそに、めいはさらに攻撃を加える。


圧倒的に力に差があったり危険を感じるような相手ならむしろ早々に逃げてくれるはずだが、なまじ力が拮抗しているだけに逆に危険なんだ。


が、そこに、


「ガアッッ!!」


と咆哮を上げながら乱入してきた奴が。


ボクサー竜ボクサーだ。ボクサー竜ボクサーの牙ではマンティアンの<装甲>には文字通り歯が立たないので成体のマンティアンに襲い掛かることはほとんどないんだが、この時の奴らはあくまでビアンカを狙っていたようだ。


もしかすると、めいがビアンカの気を引いてくれるのを狙っていたのかもしれない。


とは言え、そんなボクサー竜ボクサーの狙いなどめいにはまったく関係なく、動くものはとにかく獲物として狙う傾向にあるマンティアンの本能に従って、めいは手近にいたボクサー竜ボクサーも一撃の下に仕留めてみせた。


するとその隙を狙うようにして、今度はビアンカがめいに攻撃を加える。


しかしそうしてビアンカの気が逸れると、その隙をボクサー竜ボクサーが狙う。


恐ろしい三つ巴の戦いとなってしまったのだった。


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