明編 うっかり

デリカシーという意味では、メイトギアであるエレクシアの方が本来は配慮してくれるはずだが、ここでも彼女がロボットであるという事実が影響していると思う。


彼女はビアンカを<人間>と認識していないんだ。だから人間に対してするような配慮をしない。あくまで俺が彼女を保護すると言ったから保護対象と見做しているに過ぎない。


実際、エレクシアは、ひそか達のことも厳密に言うと人間とは見做していなかった。あくまで俺を基準にして俺が彼女達を大切にしたいと思っているのを酌んでくれてたに過ぎなかった。


この割り切りは、人間にはなかなか真似ができないことだ。


人間の場合は、人間のようにも見えるというだけでそこに人間性を投影してしまうけどな。それどころか、まったく人間とは似ても似つかない動物にさえ人間のような感覚があると勝手に想像してしまったりもする。


なのに今回は、俺の方も、彼女が今の自分を受け止められるかどうかという点について考えていたはずなのに、『カメラの前に自分の姿を晒すことに羞恥を感じる』かもしれないという部分については失念していた。


ひそか達のことを見慣れすぎてて、と言うか、ヒト蜘蛛アラクネの姿を見慣れすぎてて、俺の中ではもうすでにそういう姿を『恥ずかしいもの』だという認識がなくなっているからかもしれない。最初は目のやり場に困ってりしてたものの、今じゃ何とも思わないしな。


その上で、


『助けてやらなくちゃ』


という想いが強すぎた感じか。


でも改めて考えれば、


<全裸で足を大きく広げた姿>


という形になってるあれは、普通なら人前に出せるものじゃないよな。テレビとかじゃモザイクを掛けないといけないだろう。


いくら見た目だけで実際には機能してないとは言っても、


『動物の体の一部がそう見えるだけ』


とは言っても、解剖学的な見地からも見た目上は完全に人間のそれが再現されてるのは事実だし。


俺達としては見慣れてるにしても。


人間はそういう形で<うっかり>するんだろう。


となると、男である俺がいきなり彼女の前に出るのもマズイか。


なんてことを考えている間にも、ビアンカは密林の中を進んだ。幸いここまではボクサー竜ボクサーなどには遭遇しなかったが、完全に生息域に入っているからいつ鉢合わせてもおかしくない。


「ドローンでボクサー竜ボクサーやマンティアンの位置を把握できるか? 場合によってはビアンカの方へ向かわないように誘導もと思うんだが」


俺の指示に、エレクシアも、


「やってみます」


とは言ってくれたものの、ドローンはあくまで俺と俺の<家族>を守る為に配置してあるだけで、全てのボクサー竜ボクサーやマンティアンの動向を把握できるほどの数はないのも事実なんだよな。


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