誉編 撤退

二発目が避けられた時、エレクシアは予測射撃に切り替えた。がくが避けると思われる方向に僅かに狙いをずらして撃つんだ。


だが嶽がくの動きは不規則で、狙いを付けさせないためにわざとそうしてるのでは?とさえ思わせる。


そうこうしている間に照準合わせの為に使った一発を含む六発目を放ったら、電磁加速質量砲レールガンは、案の定、エラー表示を出して沈黙してしまった。砲身の冷却が追い付かず、かつ、バッテリーも尽きてしまったんだ。


バッテリーはすぐに充電できるが、加熱した砲身は歪みが生じてしまい、きちんと整備しないともう使えない状態だった。


なるほど戦闘でこんな風になられたら安心して使ってられないな。


なんて感心してる場合じゃない。


エレクシアは、地面に打ち付けたアンカーも回収せずに電磁加速質量砲レールガンだけを担いで戻り、ものすごい速さでケースにしまってキャリアに固定した。


俺はその間に、ドーベルマンDK-a拾号機と拾壱号機を、こちらに向かって突進してくるがくへの牽制として発進させる。


それをエレクシアがコントロールし、陽動に使うんだ。


今回は実弾を込めたショットガンを装備させていて、全速力でがくに突っ込ませた。


ガンガンと銃声が響く中、俺とエレクシアはローバーに乗り込んで、一目散に撤退する。


<最終防衛ライン>まで。


「俺だ! がくの迎撃に失敗した! 次の作戦に移る!」


一斉通信で、メイフェアとイレーネとセシリアとひかり達に告げる。


<次の作戦>。


それは、エレクシアとメイフェアとイレーネが連携して、肉弾戦でがくを迎撃するという、およそ作戦とも言えないものだ。


図らずも、フィクション的に面白い展開になってしまった。こうなって欲しくないから狙撃にしたというのに……!


拾号機と拾壱号機は、ある程度の距離を取りつつ、ショットガンでがくを迎え撃った。その様子が、上空に待機させた母艦ドローンのカメラに捉えられ、タブレットに映し出される。


だが、サイゾウくらいまでなら数発で倒せる筈のショットガンがまったく通じない。


母艦ドローンが拾う音には、ガン! ギン! という金属音が混じっていた。がくの表皮の下にできた、タングステン並みの強度を持つ鱗の層がショットガンの銃弾を弾いている音だった。


しかし、幸いにも、がくは拾号機と拾壱号機に気を取られ、すぐにはこちらに向かってこなかった。


そして俺は、その様子を見て気付いたことがあった。


「これは……」


とは言え、今はそれについて深く考えている暇はない。とにかく最終防衛ラインまで下がって迎撃準備を整えなければ……!


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