誉編 察知

新暦〇〇二八年八月二十一日。




「いよいよか……」


いよいよがくが近付いてきた。あいつを殺すことになるという事実に心が揺らぎそうになるのを無視することで強引に抑えつつ、エレクシアに、


がくを駆除しろ。そのために必要な手段のすべてを許可する」


と、俺は改めて命令を与えた。


「承知しました」


彼女は端的に応え、反動を抑えるために地面に打ち込んだアンカーで固定した<電磁加速質量砲レールガン>を構える。


普通なら<電磁加速質量砲レールガン>とリンクすることで照準器を覗き込まなくても狙いを付けられるんだが、なにしろ二千年以上前の旧式だからシステムに互換性がなく、リンクができない。


仕方なく人間が使う時と同じように照準器を覗くことで狙いを付ける。


もちろんここまでに正常に動作することは確認しているし、六発しか使えないが敢えて一発使って照準のずれも修正してある。万全を期すためには必要なことだと割り切って。


さらに、人間にはできないことだが、右目で照準を付けつつ左目で全体を見渡し、カメラの設定を切り替えて大気中の塵などの動きから風の向きや風速を読み、微妙な空気の密度の差や温度差まで読み取って弾道を正確に予測した。まさにロボットならではのことだな。


がくの頭に狙いを付け、『発射可』の表示がされ、これでもう、後は引き金を引くだけだ。


照準器を覗き込むエレクシアのカメラ映像が俺のタブレットにも転送され、そこには、照準のど真ん中に収まるがくの頭が見えていた。


次の瞬間には、直径三センチの恐ろしく重くて硬い金属の塊が秒速数キロで衝突することで、爆弾を仕掛けられたスイカのようにがくの頭が爆ぜる光景を想像し、


『すまないな……』


などと、すまないなで済むはずがないんだがついつい心の中でそう呟いてしまった。


「……」


そんな俺の感傷などお構いなしで、エレクシアが無言のまま容赦なく引き金を引く。


だが―――――


だが、それと同時に、がくがこちらに視線を向けた。確かにこちらを見て、そして頭を動かす。


「!? バカな……っ!?」


と口にしてしまったものの、それはまぎれもなく現実だった。撃ち出された弾体はがくの頭をかすめただけで虚空へと飛び去ってしまう。


「……こいつ…自分が狙われてることに気付いてる……!?」


有り得ない。有り得ないはずだが、再度狙いを付けて撃ち出された次弾も、確かに躱されてしまった。


エレクシアが言う。


がくは、<電磁加速質量砲レールガン>そのものを知っているものと思われます」


彼女の言葉は信じられなくても、目の前に映し出される光景は、確かに現実だ。


引き金が絞られ、秒速六キロ以上にまで加速された弾体が自分に届くまでの、僅かコンマ五秒程度の間に移動して、確実に躱してみせたのだ。


発射のタイミングを寸分も読み違えることなく、な。


それは間違いなく、何らかの方法でそのタイミングを察知している証拠以外の何物でもない。


しかも、直径三センチ、長さ八センチほどの弾体が秒速数キロの速度で大気中を通過したことによって発生しているはずの<衝撃波>にさえ耐えた。


もうこの時点でとんでもない<化け物>であることが確認できてしまったのだった。


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