誉編 生存戦略

話が逸れてしまったが、とにかくとおるについても、少なくとも今のところはとてもボスになれるような性質をしてない気がする。


でもまあそれはいいだろう。少なくともほまれの群れで生きる限りは特に問題ないだろうし。


ただ、巣立つとなれば話は違うけどな。


たもつのように群れに残る事例もないことはないし、もし、巣立った後に他の群れに馴染めなければ俺達のところに来てくれればいい。


パパニアンとしては実質的に淘汰されることになるとしても、俺にとっては可愛い孫だ。ここで生涯を全うすればいいさ。


それに、幼い頃はおとなしい感じの子でも、大きくなる頃には逞しくなってるなんていう事例も別に珍しくもない。他の群れでもそういうのは見られたしな。


だからまあ、今から気を揉んでも仕方ない。


なるようになる。


ってことで。


ただやはり、餌をとる時でも他の子に後れを取るのはいささか心配ではある。


しかし、思えばしずかも幼い頃は控えめでおとなしい、可愛らしい感じの子だったようだから、母親に似ていると言えば似ているのか。


幸い、今のほまれの群れではひどくイジメられることもないから、しずかのように成長することはない気もする。彼女のそれは、言ってしまえば、


『イジメられたことにより性格が歪んだ』


可能性が非常に高かったわけで。


とは言え、せっかくの果実の美味しいところは他の子に奪われてとおるは残り物しか得られないというのはいささか心配である。


その点、たもつは餌の時にはぐいぐいと前に出たし、みどりみどりで何だかんだと要領よく餌を確保してた。翠(みどり)の<怖がり>も、あくまで危険に対するだけのもののようだ。


だから心配はないだろう。


そして今日も、とおるは、みことの体にしがみついて甘えていた。みことにしがみつけない時はあおにしがみついている。


あおは基本的にボスであるほまれに対して子供が不敬な振る舞いをしたりよほど危険なことをしなければ別に叱ったりもしないので、存分に甘えることができる。


それでも、餌の件に関してはあくまで自分で取りに行かせて、積極的にいけないとおるの代わりに取っきてくれることもない。


この辺りは当然のことだが厳しいな。


さりとて、人間社会のように<生存権>を保証してくれるような社会でもないから、生きる為に自分でしなきゃならないことについては自分でということだろう。


特に雄の場合、巣立ちで、生まれた群れを離れてから自分を受け入れてくれる群れを見付けるまでは一人で生き延びなきゃいけないわけで、裸で頬り出されたら数日と生き延びることも難しい故に互いに力を合わせるという形の生存戦略を取るようになった人間とは違うということでもあるか。


もっとも、あおにしても、みどりとおるに餌を分けてやっていたりするのを見ても止めようとはしないから、人間社会ほどは重視されていないだけで、ある程度の<助け合い>もあるみたいだけどな。


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