誉編 力の差
『時には力の差を見せ付けないと子供は大人を舐める』
という話について、実際に自分が子供を持ってみて思ったんだが、
「そうか?」
というのが正直な実感だった。
なにしろ子供達が本当に幼児だった頃にはさすがに俺の方が力が強かったわけで、抱っこしたりということも当たり前にしてた。
となると、
『体の大きさも力も圧倒的に違う』
ことも子供は自然と学ぶわけで、それで何故、改めて力の差を思い知らせないといけないのかが俺には分からなかった。
普段から子供ときちんと接していると、例えば子供と相撲とかの力比べをして遊んでやると、<大人の圧倒的な強さ>というのは思い知るはずで、『時には力の差を見せ付けないと』とは何を指しているのかがまるで分らない。
それを言ってる奴は、自分の父親と遊んでもらったこともないのか?
いや、父親でなくて母親でさえ、幼児のうちはおよそ勝てない筈だ。
だってそうだろう?
母親は幼い子供を抱き上げることはできても、幼い子供は母親を抱き上げることは普通はできないぞ。
これで『力の差を理解できない』と言ってるんなら、それはいくらなんでも自分の子供をバカにしすぎじゃないだろうか。
果たして何を根拠に、
『時には力の差を見せ付けないと子供は大人を舐める』
と言っているのか、さっぱり分からないんだ。
俺の子供達の場合、早々に俺より強くなってしまったが、それでも子供達に『舐められている』という実感なんかなかったな。
もっとも、俺の場合はたぶん、エレクシアを従えていたからというのが大きいだろうが。
エレクシアは、危険な外敵が迫った時などには、当然、とてつもない力を見せ付けつつそれを圧倒してたわけで、子供達からすれば<超常の存在>ですらあっただろう。そんなエレクシアを従えてる俺は、とてつもない存在に見えたかもしれない。
そんな風にして、別に意識して、
『お父さんは強いだろう?』
なんて見せ付けなくても子供達は十分、俺のことを、
『すごい!』
と思ってくれてた気がする。
そうなんだ。何か特別なことをしなくても、普段から普通に接していれば、子供にとって親はとてつもなく強大で、自分にできないことが易々とできてしまう偉大な存在のはずだ。
その、『子供にとっては大人の代表でもある』親をすごいと思っていたら、大人のこともバカにする理由がないと思うんだよ。
それなのに子供が大人を舐めると言うのなら、そんな<圧倒的な力の差>を台無しにするような大きな失敗を大人の側がしてるんじゃないのか?
その一つが、
『力で威圧する方法を学習させることで、抵抗できない相手(力だけでなく立場的な意味でも)を見下し軽んじるようになる』
ということなんだろうな。
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