誉編 日々 その6
ただ、いくら戦争放棄を唱えているとはいえ、だからといって備えが必要ないかと言えば実はそんな単純でもないんだろうな。
『なぜ戦争を避けようとするのか?』そして『戦争回避は綺麗事ではない』ということを、冷静に考えてみれば分かる。
戦争を回避しようとするのは、あくまでメリットとデメリットを並べてそれを精査してデメリットの方が大きいと判断されたからこそであって、じゃあ、なぜデメリットの方が大きくなるのかと言えば、
『戦争をすれば自分達にも被害が出る』
というのがかなりの割合を占めるだろう。
つまり、
『相手が戦争に対する備えをしており、実際に戦えば、たとえ勝てたとしても自分達の側にも多大な被害が出る』
と判断すればこそ戦争を回避しようという判断が働くのであって、それがなければデメリットの方が大きくなるということも減ってしまうのかもしれない。
なので、相手に、
『戦えば自分達にも大きな被害が出る』
と思わせる必要があるんだろうな。
そのための<備え>は必要なんだ。
非常に矛盾しているが、
『戦争を回避する為に戦争できる用意が必要』
ということになる。
だから、<戦争放棄>を唱えつつも今なお戦争の為の準備が行われているのは、結局、それが理由らしい。
また、小国の場合は、自力での戦争の準備には限界があるから、大国と同盟関係を結ぶことで事実上の軍備を整えるんだろうが、代わりに大国の軍隊を駐留させたり、軍事費の一部を負担したりという形で、『戦争に備える』んだろう。
実に皮肉な話ではあるものの、それもまた現実なんだろうな。
そういえば、俺が子供の頃に住んでいた地域には、軍の基地があって、その基地に反対するデモがちょくちょく行われていたな。
俺の当時の数少ない友人の一人も、大人になってからだがそのデモに参加していて、たまたま再会した時に訊いたことがあるんだ。
「こうやって備えているからこそ戦争も回避されるのに、なんで基地に反対するんだ?」
ってな。
するとそいつは言ったよ。
「本音を言わせてもらえば基地が必要なことは俺も分かってるんだ。ただ、その負担をこの地域だけに押し付けて、他の地域の奴らは基地があることの恩恵だけをのうのうと貪ってる。それが許せないんだ」
と。
基地があることで万が一衝突があった時には真っ先に敵の攻撃目標になる。そのリスクを負担しているにも拘わらず、他の地域の人間がさもそれが当然のような顔をし、ただただ安穏としてるのが納得いかないということらしいな。
正直、その頃には俺は両親を亡くして妹も例の病気が進行してって頃でそれどころじゃなかったというのもあって真剣に考えたこともなかったが、今ならそいつが言いたかったこともなんとなく分かる気がするよ。
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