娘に言われたな(それだけ年齢を重ねたか)

新暦〇〇二六年三月二十八日。




しかし、この惑星に不時着してから本格的に経験することになった病気が、まさか<認知症>とはね……


普通に感染症の類を警戒してたんだが。


いや、警戒してたからこそ感染症には罹らずに済んだのか。


厳密には、軽い風邪のようなものは何度かあったものの、どれも重症化することはなく済んでいただけだが。


ここでの調査の結果、簡単な医薬品についても生成できたからな。しかも、惑星プラネットハンターという仕事柄、光莉ひかり号には全自動でワクチンなどを精製してくれる装置が備えられている。これは、コーネリアス号も同じだ。必ずしも万能とは言えないが、少なくともここの細菌やウイルスには対応できてたのが幸いだ。


加えて、数種類の抗生物質も確保できたし。


それもこれも、膨大な医学や医薬品についての情報を保持してくれていたAIのおかげだな。


AIやそれを備えたメイトギア達がいなくちゃ、俺はたぶん、一ヶ月とここで生きてはいられなかっただろう。


人間社会じゃその手の情報はいろんな形で手に入るから、メイトギアのようなロボットにまでそれほどの情報を入れておく必要があったのかどうか疑問もあったものの、こうなってみると無駄に思えたそれらに助けられてるんだから皮肉なものだ、


そして、認知症を患い壊れてしまったひそかの介護も、エレクシア達のおかげで何とかなってる。


ただ、無理に長生きさせなければこうはならなかったんだと思うと、本当に皮肉な話だよ。


『ごめんな、ひそか……』


口には出さなかったが、俺はつい、そんなことを思ってしまっていた。


だが、今さら謝ってもどうにもならない。


『謝るくらいならするな!』


って怒られそうだな。


そうだ。その選択をしたのは俺なんだから、自分が招いたことは受け止めないと。


もうすっかり意志の力を感じなくなった表情の彼女は、かつての面差しすら感じ取れなくなりつつある。ともすれば醜い怪物ようにさえ思えてしまう。


だが、彼女をそうしたのは俺なんだ……


俺はそんなことを言ってちゃそれこそひそかが救われない……


だけどそんな俺に、ひかりが言ってくれた。


「お父さん。あんまり自分を責めちゃダメだよ。お父さんが言ってたんだよ。『自分を責めすぎるな』って。お母さんに長生きしてもらいたかったのは私も同じなんだ。お父さんだけの所為じゃない」


「……そうだな。俺がそんな偉そうなことを言ったんだったな。ありがとう……」


そうか、自分の子供に諭されるようになったか……


外見上はここに不時着した時とほとんど変わってなくても、俺もそれだけ年齢を重ねたってことだな。


娘にそう言われたからには、俺も気を付けないと。


自分を責めすぎて精神を病んで、結果として家族を受け止められなくなったりしたら、それこそ本末転倒だ。


反省はしつつ、失敗から学びつつ、自分を卑下しすぎない。


お互いに声を掛け合いながら、俺達は助け合って生きていくんだ。


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