深と彩(一応、分かるのか)

ひとしきり泣いて自然と涙が収まると、何だかすっきりしたような気分になっていた。悲しいのは悲しいし、胸が苦しいような感覚はまだあるものの、開き直りのような気分でもある。なるほど<泣く>ってのは人間には必要なことなんだと改めて腑に落ちる。


「ありがとう…少し落ち着いたよ……」


ひそかに向かってそう言うと、彼女はそっと回していた腕をほどいてくれた。


それでも、俺に寄り添ってることには変わりない。


と、その時、そんな俺達を見ている気配に気が付いた。


しん……」


しんだった。さすがにほぼ野性に近いからか母親であるふくが亡くなったからといって別に取り乱したりもしなかったものの、多少は気になってもいるのかもしれない。


しんも来るか?」


問い掛けると、彼女はするりと近付いてきて、俺達の隣でしゃがみこんだ。そうして地面に手を付いて身を乗り出して、花が添えられた真新しい墓に向かってふんふんと鼻を鳴らす。


母親の匂いでもするのだろうか?


ようが亡くなった時のあかりのようには泣かなくても、これが彼女なりの悼み方なのかもしれないな。


「分かるか…?」


問い掛けても返事はない。俺も別に返事を期待して訊いたわけじゃないが。


ただ、しんは、ふくの墓に寄り添うようにしてそのまま横になってしまった。それからすぐにすうすうと寝息を立て始める。本来ならまだ寝てる時間だったもんな。


エレクシアに聞くと、昨夜もこうしてふくの墓に寄り添うように休んでいたそうだ。


やっぱり、分かってるんだろうな。


一度は巣立ったはずが子供を連れて出戻って結局は居座ってしまって、時々ふくとケンカもしてたが、その辺りはお互い野生だからそんなに気にするようなことでもなかったんだろうな。


すると今度は、さいも同じようにしてやってきて、やっぱりふくの墓に寄り添うように横になった。


しんと違ってほむらといちゃつくのに忙しかったのか殆どふくと絡まなかったさいだったものの、それでも母親のことは覚えていたんだろうな。


で、さいがそこで寝てしまったからかほむらもやってきて、寝ている彼女の体をそっと撫でていた。


こうなると俺ももう酒盛りをしてる訳にもいかなくなって、


「ま、母娘水入らずってことで」


と、ひそかを連れて家に戻った。


「おかえりなさい」


今日もじゅんに付き添っていたひかりがたまたま家の方に戻ってて、そう言って出迎えてくれた。『おかえりなさい』と言っても庭に出てただけだけどな。


じゅんも順調に回復してるみたいだな」


「うん。見た目には傷もほとんど消えてた。データ上はもう大丈夫だって。あと二~三日で出られるんじゃないかな」


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