俺にとって(居心地のいい場所を)

パートナーが年齢を重ねたら魅力がなくなるという話をよく聞くが、正直俺も昔は『そういうものかもしれないな』と思っていた時期もあったが、少なくとも俺の<嫁>達については当てはまらない気がする。


もしかしたら俺の方が愛想を尽かされるかもしれないと思っていたのに、そういうものだと思っていたのに、ひそかじんふくようも、全然、そんな気配すら見せなかった。


俺の傍がよっぽど居心地が良かったんだろうな。


俺にとって居心地のいい場所を心掛けてただけのつもりだったんだが、彼女達にとってもそうだったらしい。


思えば、俺が子供の頃の家族の関係は決して悪くなかったと思う。居心地のいい家だったのは覚えてる。多少、親に反発したことも無い訳じゃないが、それでも<帰りたくもない家>なんかじゃなかったのは確かだ。


世の中には、<帰りたくもない家>というのがあるらしい。


たとえ家族仲が悪くてもメイトギアはそれに影響されることなく労わってくれるんだが、


『自分を労わってくれるのはロボットだけ』


という事実がいたたまれなくなるんだとか。メイトギアの方が労われば労わるほど実の家族の態度との乖離が突き刺さるらしい。


人間というのは本当に面倒な生き物だが、そういうものだというのは既に分かってることだからな。だったらそれに合わせた対応というものが必要なんだろう。


しかしロボットでは残念ながら完全には埋め合わせられないというのがここでも明らかになる訳だ。


もちろん、たとえ依存という形であれメイトギアを頼りにしてそれを心の支えにしているような事例も少なくないそうだけどな。


俺は元よりそうならないように心掛けたというのはあったか。


エレクシアやセシリアは頼りになるが、彼女達はあくまで<道具>だというのは忘れないようにはしたつもりだ。ひそか達を労わるのは人間である俺の役目であって、エレクシアやセシリアには<作業>を担ってもらうのを心掛けたつもりなんだ。


なにしろ、よく様子を見てれば分かるんだが、ひそか達はエレクシアやセシリア、イレーネに対しては完全には心を許してないんだ。本能的に自分達とは根本的に違う存在だというのを察しているらしい。


これは、ほまれの群れの仲間達とメイフェアについても当てはまる。


ほまれは、俺達からはぐれて不安になっていたところで彼女に出逢ってからずっと傍にいて、実母であるひそかに次ぐ<もう一人の母親>的な面があるからか殆ど気にしてる様子はないものの、ほまれ以外のボノボ人間パパニアン達は、あからさまな敵意こそ見せていないものの彼女に対して本能的に距離を置いている節がある。


それはそうだよな。もし、メイフェアを完全に自分達の仲間だと思っているのなら、生物相手であればおよそ無敵であり、気遣いもしてくれる彼女こそが<ボス>に相応しいということになるにも拘わらず、彼女をボスとして頂こうという気配すらないんだから、やっぱり『自分達とは違う』というのを察しているんだろう。


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