新の気持ち(別に嫌いになった訳では)

「それじゃ、いってきます」


シモーヌが、見送る俺にそう言うと、後ろの席の窓に張り付いて、りんが不思議そうに俺を見ていた。なんで自分がこんなことになっているのか、いまいち理解できていないようだ。


それでも、イレーネがリンクして運転するローバーはゆっくりと動き出し、何度も行き交ったことですっかり未舗装の道路のようになったところを通って出掛けていった。


「…ん?」


何気なく気配を感じ、ふと家の方に振り返ると、屋根の上からあらたがこちらを、いや、ローバーが去った方を見ていた。りんのことを気に掛けているのだろうか。


互いに余所余所しい態度はとってても、別にいがみ合ってる訳じゃない。仲が悪いというほどじゃない。だから気に掛けてはいるんだろうな。


ちなみに今日は、チームBブラボーが、新たに完成したドーベルマンDK-aじゅう号機の性能評価試験を兼ねた調査に出ていて、あかりについていってじゅんもいないしじゅんのお守りの為にあかりもいない。


さすがにじゅんあかりもいないとなると、興が乗らないのかあの派手な遊び方はしないようだ。こうかんも今は密林に入ってしまってる。


ほむらさいは相変わらず仲が良くて、やっぱり一緒に密林に狩りに出かけてるようだ。


だから今は、あらたは一人な訳だ。


その姿が少し寂しげにも見えてしまう。


ほまれと違ってボノボ人間パパニアンの世界に帰ることもしなかったあらた。その選択が間違いだったとは必ずしも思わないものの、本人としてはどうなんだろうな。りんと別れてしまった今、何を思うんだろう。


エレクシアに尋ねてみる。


「なあ、りんと別れて、それでもここに残ってることについて、あらたは何か言ってるか?」


するとエレクシアは、


「いいえ、これといって何も。りんに対しても、上手くいかなくなってきた当初はしきりに『残念だ』『残念だ』とはおっしゃってましたが、それ以降は特に愚痴のようなものはこぼしてません」


と、淡々と答えてくれた。


「そうか……まあ、後悔してウジウジしてるよりはいいか」


本来は野生として生きていたんだから人間ほどはあれこれ考えこんだりはしないだろう。自然の中で生きていたならそんな余裕もなかった訳で。ただ、ここまでしっかりと成体になるまでここで暮らしてたことで、もう、ボノボ人間パパニアンの社会には戻れないだろうなとは思う。


となると、


『もっと早いうちに自然に帰してやるべきだった』


っていう話が出てくるだろうが、それも結局は結果論に過ぎない。


現に、ほまれさいは、現状、上手くいっている。ここで暮らし続けていてもこれといった問題は生じていないからな。


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