覇道の王(聞いてるだけなら確かにワクワクもする)

全体として見れば、太陽系の外にまで生息範囲を広げ始めた頃には戦争放棄をした人間だが、そういう形で以前にも言った通り局所的にはやっぱり戦争は起こってたりもする。


で、戦争の様式として、『互いに姿を晒しつつ合戦場に赴いて名乗りを上げて戦う』という形になったのは、それぞれの陣営のAIが人間の思惑などお構いなしで互いに情報をやり取りすることで戦争の準備をしてることが相手側に筒抜けになるということに加え、くだんの王が、古式ゆかしい<合戦の作法>に拘って、正々堂々、真っ向から突撃して相手のはらわたを食い破るという、当時の常識で見ても冗談のような戦い方で連戦連勝をしてみせた事実が影響してるというのもまことしやかに言われてるな。


その頃でも、<戦闘>といえば、事前に徹底的に情報を集め、戦略を練り、何度もシミュレーションを重ね、その作戦に適した部隊を編成し、あらゆる事態を想定した訓練を重ねた上で、


『無駄な戦闘は避けることで自軍の被害は最小に抑えつつ、最大の戦果を得る』


というのが常識だったんだが、くだんの王は、もちろんそういう部分も押さえつつ、さらに敢えて無謀とも思える戦法で相手の意表を突き、文字通り『気迫で敵を圧倒する』ことで、常識で考えたら有り得ない勝利を掴んでいったんだとか。


当時でも既に戦闘の主役はAIによって制御されたロボットで、特に最前線で実際に戦うのはロボット兵だったにも拘らず、<王>の軍勢は人間とロボットの混成部隊で、強力な武器を装備してるとはいえ死をも恐れず猛烈に突撃してくる<生身の兵士>の迫力に、安全な筈の後方でロボット兵を指揮していた士官達は動揺し、的確な指示が出せなくなって撃破されていったようだ。


まあ、自軍も敵軍も、戦闘を行うのはロボットばかり。画面の中でロボット同士が戦うという、それこそ本当にただのゲームのような戦争しか経験したことのなかった士官達には、画面の中とはいえ生身の兵士が血を流し内臓をぶちまけながら死んでいく光景と、それをものともしない<王の軍勢>の気迫に呑まれたんだろうな。


そんな訳で、一植民惑星の中での話とはいえ、破竹の勢いで勢力を拡大。一時はその植民惑星の社会の八割を支配下に収めた<王>の話は他の植民惑星や地球にも伝わり、人間社会全体を震撼させたともいう。


しかし、それほどの<王>の側近がどうして裏切ることになったかといえば、王が、その側近の娘を戯れに凌辱したことで恨みを買ったというのがもっぱらの通説らしいが、真実はそこまで単純な話でもなく、側近の娘自身が王を愛して尽くしたものの、強欲で多情だった王は彼女だけでは飽き足らず無数の女性をはべらせて、その世話を側近の娘にやらせていたというのが実際だったみたいだな。


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