群れに嫌われて孤立すると(命に係わるからな)

ひかりの服を着て、あかりに髪を梳いてもらったじゅんは、パッと見ではすっかり女の子みたいになってしまった。


しかしその行動はやはり雄のそれで、特に求愛行動については非常に情熱的だった。ほむら達にも負けていない。


部屋にひかりがいると、壁となく柱となく跳び回って激しくアピールする。


そんな熱心さがまんざらでもないみたいで、ひかりも決して邪険にはしなかった。


まあ、元々彼女は、態度は冷たそうだが根は優しい子だからな。


だが、どちらかと言うとあんまり激しいアピールよりは、一緒に絵本を読んでくれる感じの方が好きなようではある。だから、むしろ求愛行動で疲れた後のじゅんの頭を優しくなでたりしててそれがいい雰囲気にも見えるし、じゅんもそれをうっとりした表情で受け入れていたりもした。


それがまた仲のいい姉弟、いや、<姉妹>のようにも思えて、俺もホッとする。








新暦〇〇一八年五月二十九日。




いくら俺が受け入れていても、見た目は人間でも、じゅんはやっぱり余所者かつボノボ人間パパニアンな訳でその辺りを少し心配もしていたが、本当に上手く馴染んでくれてると思う。


この辺りは、ほまれをはじめとした俺の子供達との経験が役に立ってるのかもしれない。じゅんにとっても馴染みやすい環境を作れているんだろう。


ほむら達とも上手く折り合ってくれてるようだ。ほむら達にしても、じゅんが上手く合わせてくれてるからか意地の悪いこともしない。じゅんは、ほむら達が寛いでるところには近付かないようにしているのが分かる。


それは決して、恐れてるとか嫌ってるとかいうのとは違う、絶妙な距離感。


最初は確かに寛いでるところに踏み入ってしまってほむら達の機嫌を損ねてしまったりもしたが、すぐに<ちょうどいい距離感>のようなものを掴んだのかもしれないな。


この辺りは、群れを作る種族の中でも特に社会性が発達してるボノボ人間パパニアンならではか?


人間も社会性動物の筈にも拘わらず、どうも感覚が鈍ってしまったのか上手く距離感が掴めなかったりするが、より野生に近いだけにそういう部分が鋭敏なんだろうか。群れに嫌われて孤立するとそのまま命にも係わるだろうからな。


そういう点ではかなりシビアとも言える。


まあ、うちの<群れ>ではそこまでシビアなことは要求するつもりはないものの、ひそかほむら達は俺やシモーヌよりは厳しいだろうし、嫌われて群れに居辛くなるようなことは回避して欲しいと思う。


だから今の調子で行けてくれると嬉しいんだ。


実際にひかりのパートナーになれるかどうかは分からなくても、もう家族みたいなものなんだし。


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