天敵だらけ(考えてみればそうだ)

新暦〇〇一八年五月二十日。




ただ、群れには加わったものの、同時に、今一度言うが、じゅんにとっては驚きの連続というのも事実だろうとは思う。


その一つが、ボノボ人間パパニアンにとっては最大の天敵であるカマキリ人間マンティアンがいたことだろう。だから、普段は気配を消してその存在を悟らせなかったじんの姿を初めて見た時にはあまりに距離が近かったことで固まってしまい、その場でおしっこさえ漏らしてしまったくらいである。


「ありゃ~? じゅん、おしっこ漏らしちゃった」


一緒にいたあかりが思わずそう声を上げた。


本来なら遠くにちらっと姿が見えただけで全力で逃げなきゃいけないような相手だ。それが僅か数メートルの距離に突然現れたことでパニックになってしまったんだろうな。それどころか死を覚悟したかもしれない。


あかりもそれは察したみたいで、


「大丈夫だよ。じんは私達の家族だから襲って食べたりしないよ」


と、じんの体に抱きついてみせたりもした。


「……」


するとじんも、そんなあかりの頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


他のカマキリ人間マンティアンには見られない行動だが、俺がひかりあかりだけじゃなく、めいじょうに対してもそうしていたから、真似するようになってくれたのかもしれない。とにかく、まったく危険そうには見えなかったと思われる。


とは言え、さすがにすぐにはじゅんも納得できなかったらしく、その後もしばらく怯えていた。


それでも、あかりひかりもまるで恐れていないのを見て、しかもじんの方もじゅんに対して特に意識を向けることもなかったことで、数日も経てば『この群れにいるこいつは危険じゃない』とは理解できたようだ。


ただし、決して近付こうとはしなかったが。まあ、そのくらいは仕方ない。


だが、この<群れ>にいるボノボ人間パパニアンの天敵はカマキリ人間マンティアンだけじゃない。


そもそもあかり自身が本来はタカ人間アクシーズの血を引いてる訳で、その母親であるようが俺のローバーの屋根に巣を作ってそこで寝泊まりしてるのである。


そのことに気付いた時にも当然、じゅんは怯えた。だがそれも、早々に危険がないことを察することはできたらしい。


ただし、近付こうとしないのは同じか。


さらには、ヒョウ人間パルディアによく似たライオン人間レオンである、ふくしんさいりんもいる。


こちらはまああくまで『似ている』というだけでヒョウ人間パルディアそのものじゃないからかいきなりパニックになったりはしなかったが、明らかに緊張はしていたようだ。


しかも家の周りにも得体のしれない<怪物(=ドーベルマンDK-a)>がうろついていたり、ボクサー竜ボクサーの群れがすぐ近くにいたりと、お化け屋敷も目じゃない(まあ、お化け屋敷には基本的に大きな危険はないからな)恐怖の場所だっただろう。


なので最初は、光莉ひかり号に匿ってやっていたのだった。


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