この手順が必須なんだ(人間の場合だとマズいが)

ひかりに一目ぼれしてそれまでいた群れから巣立って、ひかりが所属する群れに加わることを決めたじゅんだったが、それには必ず超えなきゃいけない関門がある。


ボスである俺への挨拶だ。


帰ってきてまず一番に、あかりひかりに伴われて、じゅんは俺の前に来た。緊張してるらしく、視線が定まらない。だが、二人に促されて地面に手をついて、首の後ろを俺の前に晒した。日本にルーツを持つ俺にとってはおなじみと言ってもいい<土下座>によく似た、服従の姿勢だ。


「……」


そして俺は、じゅんの首筋に右手を触れさせて、ぐっと押した。ビクっと緊張するのが分かったが、これは必要なことだからな。


人間でこんなことをすると暴行罪で訴えられてもおかしくないものの、ボノボ人間パパニアンにおいてはこの手順が必須なんだ。


こうしてじゅんは、正式に俺達の<群れ>に加わったのだった。









新暦〇〇一八年五月十七日。




とまあ、傍目にはすんなりと俺達の群れに加わったように見えたじゅんだが、彼にとってもそれは戸惑いの連続だっただろう。


自分と同じように体毛の少ないのが何人もいて、おかしな形の洞穴に住んでるんだもんな。


だからあかりの傍から離れようとしなかった。惚れてるのはひかりに惚れてるが、頼りになるのはあかりということなのかもしれない。


あかりにしても、新しい<弟>ができたみたいで嬉しかったようだ。


じゅん、こっちこっち!」


じゅんの手を引いて、家のあっちこっちを案内して回ってたし。


「ここは私とお姉ちゃんの部屋。こっちはお父さんの部屋。こっちはほむらさいあらたりんの部屋。こっちはひそかの部屋、こっちはじんの部屋、こっちはふくの部屋」


と、まさに順番に教えていってたな。もっとも、<部屋>といっても完全に独立した空間じゃなくて、簡単な間仕切りでそれぞれの姿が丸見えにならないようになってるだけだが。


で、じゅんの方も、戸惑いながらも興味深そうに見てた気がする。しかも、あかりは人間の言葉を喋っているのに、どうやら結構伝わっているようだ。


もちろんそれは、じゅんが人間の言葉を理解してるという意味じゃない。ただ、あかりの話し方の一部が、ボノボ人間パパニアンの言語に近いものになってるんだ。これはたぶん、ほむら達と遊んでるうちに身に付けたものだろうな。


ちなみに、ほまれと行動を共にしてボノボ人間パパニアンの群れに寄り添う形で常に待機してるメイフェアからデータを提供してもらっているエレクシアとセシリアとイレーネも、ボノボ人間パパニアンの言語をおおむね理解していて、ひかりも基本的なコミュニケーションくらいなら取れるんだよな。


しかも、ライオン人間レオンのコミュニケーションについてもある程度は解析済みだそうで、そのおかげでスムーズにいってるというのもある。


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