分かりやすい表情とかがなくても(なぜか分かる)

新暦〇〇一一年十一月二十七日。




「お父さんは、私達のことを最後までちゃんと見届けて。それがお父さんの役目だと思う……」


ある日、俺がいつものようにほまれめいしょうそうかいの様子をタブレットで確認してた時、突然俺の前に立ったひかりがそんなことを言い出した。


「……」


まったく前触れもないことだったから唖然としてしまうが、数瞬の間をおいてその意味が伝わってきて、


「…あ…ああ、もちろんだ。そのつもりだよ」


と答えさせてもらった。


不意を突かれたものの、そうだな。ひかりも、エレクシアやセシリアやシモーヌからいろんなことを教わって、いろんなことを自分で考えるようになってたんだ。


普通の人間の子供のように饒舌にあれこれ話をする訳じゃなかったが、ひかりはとてもいい子だったと思う。利発で、優しくて、芯が強くて。


だからこそ、ここで生きていくことになる、あかりほむら達の<お姉ちゃん>として、代表として、父親である俺に対して釘を刺しておきたかったんだろうな。


いいお姉ちゃんじゃないか。しっかりしてて、下の子達のことをよく考えてくれてて。


この子も成長してるんだなっていうのを改めて実感させられた。


実年齢は九歳。外見はハイティーンくらいに見えるようになってからはあまり変化がないけどな。どうやらそれでもう<成体>ってことなんだろう。


決してベタベタと仲良くする訳じゃないが、この子は弟妹達のことが好きなんだ。だから進んで面倒を見たりもする。絵本を読み聞かせてあげてたのだって、ひかりなりのコミュニケーションだったんだろう。あまり理解してもらえなくても、すぐに飽きて近寄ってこなくなっても、この子はそれを怒ったりしない。


本当にすごくいい子だよ。


だから、


ひかり、お父さんのところに来てくれてありがとうな」


自然と当たり前のようにそんな言葉が漏れた。


最初の頃、妹のことも守ってやれなかった俺が子供を持つなんてと後ろめたさを感じてたのも事実だ。けれど、子供達に囲まれあたふたしながらも毎日を過ごしてるうちにそれを忘れてしまってたのもまた、事実だった。


「……」


『お父さんのところに来てくれてありがとうな』という俺の言葉に、ひかりは黙って頷いてくれた。


ここで、照れくさそうにはにかんでくれたりしたらそれこそ感動的な良いシーンになったのかもしれないが、そういうのがないのがいかにもこの子らしかった。


だけど、俺には分かる。一瞬、目を逸らした後、俺を見る表情が少しだけ柔らかくなったのが。他人には分からないかもしれないが、この子のことをずっと見てきた俺には分かるんだ。


だから、分かりやすい表情とかがなくても喜んでるか嫌がってるかくらいは分かるんだよ。


なんか、不思議だけどな。


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