第183話 ファムの策略
「敵の魔力水や兵糧を減らせか」
ファムは、アルスからの書状を受け取っていた。
アルスの家臣となったシャドーだが、実際は傭兵団で依頼を受けていた時と、そんなに実態は変わらない。
家臣になったので、命令は断れないのだが、シャドーのメンバーはファムが統率して、任務を達成する。
今回の任務は決して簡単なことではなかった。
ファムは、サイツ軍の情報収集を遂行しており、サイツ軍にも、シャドーのような密偵がいると知った。
シャドーよりかは、能力は低い。
ただ、それでもいるのといないのでは大違いである。
密偵は、今回の戦においては、カナレ軍の情報を集める事より、敵密偵からの工作を防ぐ任務を与えられていたようで、かなり防備が固くなっている。
敵軍からしたら、数で勝るカナレ相手に、戦で勝つには絡め手を使ったりする必要はない。普通にやれば勝てる。
普通にやれなくなる状況を作られるのが一番問題である。
その状況を作られるとしたら、工作を受け、兵糧や魔力水を減らされる以外はない。
それを未然に防ぐため、密偵を使うのは合理的な判断だろう。
密偵の動きは密偵にしか分からない。工作を防ぐ役目は、密偵に任せるのが一番効果的だった。
密偵に守られているなかで、工作を成功させるのは容易ではない。
さらに、時間制限もある。
時間をかければ可能かもしれないが、出来るだけ早く工作を成功させなければならない。
普通の密偵なら、今回の任務は達成不可、と返答するだろう。
あくまで、普通の能力の密偵の場合だ。
シャドーは普通とは程遠い凄腕で構成された、精鋭密偵の集団である。
「やれと言われれば、やるしかないだろうな」
自分たちならば、どんなに困難な任務だろうと、達成できるという自負があった。
そもそも、断るという選択肢はない。
今は、独立した傭兵団ではなく、アルスの家臣となっているのだ。
主人の期待には応えねばならない。
ファムは、任務を確実に成功させる方法を考えるため、頭をフル回転させ始めた。
敵の兵糧、魔力水をロストさせるには、いくつか方法がある。
輸送しているところを狙うか、兵糧、魔力水を貯めている拠点を狙うか。
兵糧、魔力水を貯めている拠点は、戦場の近くに配置するものであり、シャドーも位置は掴んでいた。
しかし、その拠点は一箇所だけでなく、複数ある。
一箇所に貯めるのは、リスクが大きすぎるためそうしているのだ。若干、補給効率は悪くなるだろうが、それも考慮の上だろう。
恐らく、シャドーが場所を掴んでいない拠点も、いくつか存在すると思われた。
複数あるとなると、全部を叩き潰すことは非常に難しい。
輸送中を襲うのも難しい。大勢の兵に守られているので、シャドーの団員たちで突破するのは困難だ。
(ただ、今回の任務は、兵糧、魔力水の完全ロストではなく、減らせとある。当然、少量ではダメだろう。戦略的に、カナレが有利になるくらいに、減らせればいい)
ファムは、指示からアルスの意図を考え始めた。咄嗟に書いた指示だったので、色々意思伝達が未熟なところがあった。
(それならこの際、兵糧か魔力水のどちらかに絞って、狙っていった方がいいか。戦うには兵糧は必須なものだ。魔力水は、最悪なくても戦うことが可能だし、兵糧に狙いを絞るか……いや……)
傭兵として雇われていた時なら、ただ依頼をこなしていれば良かった。
だが、家臣になった今、主人の勝利へ向け、さまざまなことを考える必要があった。
(兵糧の数自体は、直接の戦闘力に影響はない。全て無くさせない限り、敵軍は攻略を焦るだけで、やめようとはならない。逆に、尻に火がついた敵軍が、本腰を入れて大攻勢を仕掛けてくるかもしれない。
魔力水はどうだ? サイツは魔力水の原料となる、魔力石にはあまり恵まれない土地だと聞く。ロストしたら、すぐに補給するのは難しい。魔力水が少なくなった場合、敵軍の戦力そのものを下げる効果がある。兵力で負けていても、魔力水の数自体で優っていれば、防衛戦ならば勝利できるかもしれない)
ファムは色々考えた末、結論を出した。
「魔力水を狙おう」
そう決めたファムの動きは素早い。
現在魔力水が、どの拠点にあるかを調べ始める。
それを重点的に狙おうと思ったが、やはり全て潰したとしても、敵に与える被害はそう大きいとは思わない。
「魔力水を失わせるのではなく、盗めればいいのだが……」
盗んで自分たちのものにすれば、相手の数を減らして、自分たちの戦力増強にも繋がる。
まさに一石二鳥。
しかし、戦場から盗み出すのは、失わせるより、圧倒的に難しい。
拠点を潰すだけなら、火をつけるなどすれば、すぐに終わるのだが、盗むとなると、敵の隙を付き、忍び込んで、そこから魔力水を持って逃げなければならない。
相手に完全に勘づかれず盗み出すのは、ほぼ不可能。
影魔法の魔力水があれば可能かもしれないが、クランを助けるのに使い切った。
貴重な物であるので、まだ再調達は出来ていない。
どうにかして盗めないかと考えていると、一つ方法が思い浮かんだ。
現実的に可能な方法か検討した。
これは、成功すれば、多くの魔力水を一箇所に集められ、その上で盗めるという、相当なメリットをカナレ軍に与えることのできる作戦だと、ファムは考えた。
そして、成功させることも恐らく可能である。
ただし、シャドーの手だけでは難しい。
作戦をアルスに伝えて、協力をしてもらう必要がある。
ファムは急いで作戦をベンに言って、口頭でアルスに伝えてくるように頼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます