第181話 騎兵
まずリーツは、近くにいた兵士に伝言を頼んだ。
自分は前線で戦うので、細い指示は送れなくなるし、戦況も正確に把握できないので、騎兵を出動するタイミングが分かりづらくなる。
そのため、クラマントとブラッハムに伝えて、騎兵の出動タイミングは、二人に決めてもらう必要があった。
ブラッハムは上手く判断出来るかは微妙だが、クラマントは百戦錬磨の傭兵だ。
隙を突くタイミングを測るのは、間違いなく上手いだろう。
兵士に伝言を頼んだ後、遂に最前線で戦う時がやってきた。
「それでは突撃する! 僕に続け!」
リーツが、歩兵たちを率いて、敵兵たちを迎え撃った。
自軍の弓兵たちがそれに合わせて、敵兵たちに矢を浴びせる。
最前線でリーツは、とにかく声を張り上げながら戦う。
次々と来る敵兵。機動力重視の兵たちは、防御力が低い代わりに、動きが速い。
弓で討ち取っても、剣で斬っても次々とやってくる。
そんな中、リーツの働きは凄まじかった。
迫りくる敵兵たちを次々に斬り捨てていく。相手の攻撃を全く寄せ付けない。返り血を多く浴び、鎧は赤く染まり、鬼神のごとき戦い方だった。
リーツのすぐ隣で、大活躍していたのが、ザックだ。
アルスが強力な即戦力として取ったザックは、兵を率いる能力はそう高くはなかったが、白兵戦の強さは非常に高かった。
リーツは、ザックが十分に背中を任せるに足る存在として、奮闘していた。
乱戦はさらに激しさを増していく。
二人の奮闘に、ほかの兵士たちも奮起していた。
シャーロットの放った爆炎にも怯まず前進し続けた敵兵たちだったが、それをも怯ませるほどの勢いでカナレの兵士たちは突撃していく。
徐々に優勢になる。
「はぁはぁ」
何人もの敵兵を斬り倒し、リーツは疲労し始めていた。
いかに強くとも、その体力が無限に続くことはない。
絶対に、そのうち戦えない状態になる。
体力の限界が来そうになったら、流石に引かないといけない。
ここで自分が討ち取られると、カナレ軍が大損害を受けることは、リーツも重々承知している。
しかし、簡単に引いてしまっては、時間を稼ぐという目標を達成することは出来ない。
(まだ……まだ戦える……!)
ここはまだ自分の限界には、程遠い。
もっと戦える。敵兵を討ち取れる。
心を奮い立たせながら、剣を振るい続けた。
○
「さて、そろそろ行くか」
戦況を見ていた、メイトロー傭兵団のクラマントが、馬上からそう言った。
クラマントは敵兵たちの意識が、相当歩兵たちの乱戦に向いており、今なら回り込める状況だろうと判断した。
「え?? もう行っていいのか?」
ブラッハムは、案の定戦場を見ても、いいのかどうかは分からなかった。
彼はそれなりに戦場に出た経験がある。
しかし、個人の戦闘力があるだけのポンコツと認識されていたため、前線で戦った経験は少ない。
敵兵の現在の状態なども、正確に把握することが不可能だった。
「な、なんかアンタの方が俺より詳しそうだし、信じてついて行くぜ!」
以前までのブラッハムならば、ここで自分の本能に従って、突撃をして行っただろうが、他人に従うという事を覚えた。
リーツの指導で少しだけ成長をしていた。
クラマントと、ブラッハムの率いる騎兵たちが、素早く動き始めた。
今回は奇襲なので、騎兵たちの総数はあまり多くない。
多すぎると、敵に気づかれるのが早くなるし、さらに全体の騎兵の質が下がってしまう。
今回は総数は百人ほど。それも、騎兵の中でも能力の高いものだけが、奇襲に加わる。
カナレ軍の騎兵よりも、メイトロー傭兵団の団員の方が、騎兵の数としては多かった。
クラマントが率いるから、というのもあるが、純粋にメイトロー傭兵団の団員の方が、騎馬の扱いが上手かった。
相当、訓練を積んでいるようで、人馬一体となっての戦闘をできる者が、多くいた。
精鋭の騎兵たちは、素早く、それでいて一糸乱れず、敵兵の背後にいる魔法兵たちを目指す。
乱戦で、周りを見る余裕のない敵兵は、騎兵隊の接近に気づかない。
魔法兵たちに接近した。
防御魔法をかけることに集中していた魔法兵たちは、騎馬の接近に気付き、大慌てをした。
まず、クラマントとブラッハムが、馬上から矛を振りまわし、魔法兵たちを撫で切りにしていく。
敵の魔法兵たちは、この時点で防御魔法ではなく、騎兵たちの撃退に魔法を使用し始めた。
魔法が至近距離から飛んでくる。
何人かの騎兵たちが魔法を受け倒れるが、馬の扱いに非常に長けた者だけで、構成されているので、避けていった。
馬を操る兵だけでなく、馬の方も能力が高い。
魔法を使われると、馬は大混乱に陥り、まともに戦えなくなることもあるが、魔法を使われても混乱せず走る馬は、非常に訓練されているようだった。
魔法兵たちは、接近されると非常に弱い。騎兵たちがほとんど被害を出さずに、討ち取っていく。
敵の魔法兵が音魔法を使用し、自分たちのピンチを味方に知らせた。
しかし、知らせるまでに時間がかかった。
触媒機に入れることの出来る魔力水は一種類だけ。
炎に対する防御魔法を使っていたので、中に入っているのは炎の魔力水で音の魔力水はなく、恐らく音の魔力水を入れている魔法兵は少なかったのだろう。
その魔法兵に襲撃されていると伝達するのが、非常に遅くなったようだ。
音魔法が鳴り響いたのを聞き、魔法兵たちのピンチを敵の歩兵は知る。
乱戦となっているのですぐに助けにはいけない。逆に混乱してしまっているようだ。
騎兵たちはそのまま魔法兵たちを倒し続けた。
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