第120話 北高祭2日目 生徒会長と対峙したけど

「校内ライブは安全面の問題から承認されなかった、そうですよね?」


 生徒会長は静かに言った。


「…」


 怖い。あたしは返事をしようとしたが、言葉が出ない。


「すでに電子ピアノは部室から持ち出され、謎の第三者も部室に居ない」


 ものすごい眼力だ。目を見て話すことなんて出来ない。あたしは目を逸らした。


「あの謎の第三者は…」

「ひっ」


 背後から声がした。ようやく出たあたしの言葉は短い悲鳴だった。いつの間に?一瞬目を逸らしただけなのに、会長があたしの背後に立っている。


「会長、今美咲の背後に回り込むとき数センチ宙に浮いてませんでした?会長、能力者?」


 宮子、今は冗談は無しよ。能力者なんて居ないんだからね。


「あの第三者は、携帯使用許可証への印を宮前先生に押させた」


 剣谷さんのこともバレてる。すべてお見通しってことみたい。抵抗は無駄だ。あたしは生徒会長のほうを振り向いた。


「はい、その通りです。でもどうして剣谷さんのことを…」

「部室を覗き見したら居ました」


 覗き見で情報収集とは、さすが宮前一族だ。人伝てに聞いたなら誤魔化しようもあるけど、自分の目で見たんだったらもう誤魔化せ無い。

 あたしは目を閉じて溜息をついた。会長は先生の姪っ子、あたしたちがかなう相手じゃない。


「あの人は…」


 あれ?目を開けると生徒会長が居ない。


「あの第三者の危険性は低そうですね」

「ひっ」


 また一瞬で背後を取られた。宮子は、浮いた?浮いてない?と呟きながら会長の足下を見ている。浮くわけないでしょ。


「生徒に危害を加えるような人物ではないと判断しましたが、正解ですか?」

「はい、それは大丈夫です」

「わかりました。今現在、校内のどこかに居るようですが、緊急性は低いということで良いですね?」

「はい、大丈夫です」

「よろしい。それで、あなたは今から部室に行って眠っているボーカルの女子を起こす、違いますか?」

「い、いえ、その通りです。なんで眠っていることを…」

「先ほど、覗き見したと言ったと思いますが」


 そうだった。あ、あれ?目を閉じた覚えはないのに会長が目の前から消えた。


「慌て気味に起こしに行くということは…」

「ひぃっ」


 また背後を取られた。目を開けていたはずなのに、動いた気配が全くしない。宮子の言う通り、会長は少し宙に浮いてるのかも知れないと思ってしまうほど見事だ。


「以前「私に背後を取られないように気を付けて」と言いましたが、こんなに簡単に背後を取れますね」


 確かにそうだ、この人には絶対勝てない。かなわない。


「間もなく校内ライブが始まるから、もう起こさないといけない、ということですね?」

「…」


 これ以上話してしまうと皆を苦境に落とすことになりかねない。あたしは黙った。


「起こしに行くのはもうしばらく後にしなさい」


 駄目よ、そんなことをしたら生徒会が有利な態勢を取る。会長の言う通りには出来ない。


「大丈夫ですよ、生徒会側の都合では有りません」

「え?それはどういうことですか?生徒会の時間稼ぎじゃないんですか?」

「私は宮前先生の姪っ子ですよ。そんなズルいことはしません」

「じゃあなんで…?」


 会長はニコッと笑った。


「せっかく抱き締めあって胸に顔をうずめて気持ち良く寝ているのに、邪魔したら悪いと思いませんか?むしろもう1人居る女子を外に連れ出すべきです」


 え?抱き締めあってる?何やってんの?あの2人。それにしても、


「生徒会は抱き締めあってる2人を放任してくれるんですか?」

「放任なんてしませんよ」


 じゃあどうするの?


「覗きます」


 ああ、会長はやっぱり真知子先生の姪っ子だ。

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