第117話 北高祭2日目 生徒会長、走る

「あ~狭かった…」


 掃除用具入れから出てきた剣谷さんに真知子先生は言った。


「君の振る舞いを放っておいて学校にバレると、桜谷香風にも影響が及びかねない。と、言うことでこれ以上見過ごすわけには行かない」

「でもその香風に頼まれて来たんですよ」

「知るか、いかなる理由が有ろうとも私は生徒を一番に考える。お前が桜谷やこの連中にに害を及ぼしそうなら事前に潰す。それに…同好会のことを思ってお前を呼んだ桜谷の気持ちも考えろ」


 真知子先生の厳しい目や口調は凄みがあった。剣谷さんは黙ってうなだれた。


 宮 子 ○×●剣谷さん

真知子先生○×●剣谷さん


 勝負はついた。香風にあとで聞いた話だと剣谷さんは時代劇口調のときは調子に乗って暴走気味に仕切り始めるんだそうだ。それならそうと前もって言っといてよね。

 でもアイドル活動でのライブではその押しの強さで不利益をこうむらない仕切りをしているらしい。

 敏腕かも知れないけど、あたしたちは営利目的のライブをする訳じゃないんだしそんなハイスペックな人に仕切られても困るよ。


「剣谷さんには、ゲリラライブの運営のみやって貰う。生徒会や教師陣の対策は考えなくていい。わかりましたか?」

「はい、わかりました…」


 私と生徒会長の勝負は誰にも邪魔はさせない。真知子は心の中で闘志を燃やした。


 その頃生徒会室では、これまでの情報を基に合奏同好会のたくらみを分析をしていた。


「合奏同好会が何かを企んでいるのは間違いないですね。以前、校内ライブの申請を却下したので無許可ライブを企んでいると考えていました。しかし、昨日の部室ライブは大盛況で集客、握手券販売とも順調、人の流れとお金の流れが確立しているのに、わざわざ部室の外でライブをやる意味合いは薄れていると思います」

「私も副会長の意見に賛成です」


 副会長と書記は読みを誤った。


 部室ライブは香風がうっかり開催すると言ってしまったために発生した突発イベントで、握手券販売もその場の思い付きだった。

 ゲリラライブは路上ライブに憧れる日之池亮の希望を叶えるために当初から計画されていたもので、部室ライブの成否は関係無い。


 その事を知る由も無い生徒会は情報不足だった。


「同好会は予算が少ないので、握手券の売上は貴重と思われます。そう考えるとお金の流れの確立している部室ライブを今日も実施するでしょう」


 会計は会計的視点で読みを誤った。


「実は何にも企んで無い、という線はどうでしょう?」


 庶務は雑用が増えると嫌なので、企みは無いと言うことにしたかった。


「いや、宮前先生が何かを探っているのなら、何かを企んでいるのは間違い無い!今から合奏同好会の部室に査察に行きましょう!」


 風紀委員長が語気を荒げた。


「ちょっと待って。同好会には宮前先生が居るから闇雲に動いたら駄目」


 そうは言ってみたものの、何かがおかしい。宮前生徒会長は思った。


 宮前先生は人を使って探りを入れるようなことはしない。ではあの携帯使用許可証は何?誰かが先生に判子を押させた?でもあの子たちにはそんなことは出来ない。だとすると…他の、第三者?誰かが居るの!?あの叔母さんにそんなことをさせる第三者って危ないよ。

 

「会長?どこへ?」

「お花を摘みに行ってきます」

「え?花を?なんでいきなり?」

「トイレに行ってくるということですっ」


 生徒会室を出た会長は全力で合奏同好会の部室に向かった。


 憶測で皆に付いて来て貰うわけにはいかない。もし第三者が居たら皆が危ないことになるかも知れない。だから私だけで見に行く。


「だって私は会長だもの」


 部室前に着いた会長は息を整え扉を少し開き中を覗いた。


 やっぱり部外者が居る!でも危ない雰囲気は無さそう。不審者では無さそうね。叔母さんもあの子たちも無事だ。良かった、このまま生徒会室に戻ろう。盗み聞きしたら企てが分かるかも知れないけど、それはフェアじゃない。叔母さんとは正々堂々と戦いたい。それに…


「早く戻らないとトイレが長かったと思われたら恥ずかしいじゃないの~」


 会長は全力で生徒会室に戻って行った。


 この事は伏せておこう。私と宮前先生の勝負は誰にも邪魔はさせない。生徒会長は心の中で闘志を燃やした。

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