第116話 北高祭2日目 籠城戦って勝ち目あるの?

「早く隠れたほうが良いですよ~!」


 宮子が剣谷さんをかした。


「こっちこっち」


 暗幕の後ろに連れて行かれた剣谷さんは掃除用具を入れている縦長のロッカーに押し込まれた。かなり狭そうだ。

 それを見てお嬢が言った。


「宮子さん、それは酷いですよ」


 あたしもちょっとやり過ぎだと思う。生徒会がホントに来るわけじゃ無いんだから。

 お嬢はロッカーを開けた。


「せめて掃除用具は外に出しましょう」


 そういう問題?

 お嬢はほうきやバケツをロッカーから出すと、再び剣谷さんを押し込んで扉を閉めた。もうひとつ問題があるよ。外に出たくても内側からは開けられないんじゃないかなあ。


「今出した掃除用具、どこかに隠してよ。怪しまれるからね、ひと段落するまで籠城ろうじょうするわ」


 剣谷さんが中から叫んだ。



「いいか、お前たち。あれが不確かな情報を信じた者の末路だ」


 扉の隙間から部室を覗いていた真知子が親衛隊に言った。


「これからは収集した情報は鵜呑うのみにせずに自分で吟味ぎんみすることも心掛けろ」

「はい、勉強になりました!」

「では、入ろう」


 扉がバーンと開いた。あたしたちも驚いたが剣谷さんはかなり驚いたようだ。


「ぎゃっ」


 ロッカーの中から声が聞こえた。そんな大きな声出したら、部室の中に居るのがバレバレだよ。


「入るぞー…何をしている?」


 真知子先生が白々しく聞いてきた。


「あ、先生。ええと生徒会が剣谷さんを捕まえに来るとか来ないとかで籠城を…」

「うん?生徒会?来ないぞ」

「えええ?!どういうことですか?開けてください」


 ロッカーの中から声がして、内側から扉を叩く音がした。


「もしかしてこれが原因か?」


 ますます白々しく真知子先生はスマホを眺めながら続けた。


みこさん親衛隊モブC

〔生徒会に剣谷さんの存在が〕

〔部室に生徒会が〕


「今しがた文章は最後まではっきり書くようにとモブCに指導してたんだが、このメッセージは正しくは…」


みこさん親衛隊モブC

〔生徒会に剣谷さんの存在が

〔部室に生徒会が


「…だそうだ」


 すかさず宮子が白々しく、


「なーんだー、生徒会が来るかと思って漫研ほったらかして慌ててこっちに来ちゃった~」


と言った。先生と宮子の連携プレーってなんでこんなに息が合ってるの?漫研ほったらかしてって、退部させられないの?大丈夫なの?


「なるほど、確かにどちらにも解釈できるメッセージだった。悪いことをしてると思ってる人は悪いほうの意味に取るんだな」


 まどろみさん、辛辣しんらつだ。


「お巡りさんを見たときに挙動不審になる人はやましい事が有るって言いますよね」


 お嬢、それは犯罪者…でも前日から校内に潜伏して職員室に侵入してるから犯罪者だ…怖っ。

 まどろみさんとお嬢がじーっとあたしを見ている。あ~そうですか、いつもの流れであたしの番ね。


「ま、まあ香風このかに言われてあたしたちを手伝いに来てくれたわけだし、そこまで言わなくても良いかなぁって思うよ」


「美咲さん…真面目ですね。つまらないです」

「美咲、三段落ちだ、笑わしてくれないと」

「え~、あたし芸人さんじゃ無いし」

「お前たちは良いトリオだ。見ていて楽しいぞ」

『あっははは』


 先生、そんな風に思ってくれてるのね。


「おーい」

「どうした?亮?」

「そろそろロッカーから出してあげたら?」

『あ、忘れてた!』

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