第104話 北高祭初日 悪徳プロデューサー現る

 北高祭は6月上旬の土日に開催される。土曜日は学内関係者のみ、日曜日はチケット制一般公開日だ。


 文化系の部活に所属している人はその活動発表を行い、あとは各クラス単位での出し物だ。あたしたち1年生は創作オブジェの展示、ちなみに2年生は飲食模擬店、3年生は体育館の舞台で創作演劇の発表をする。それぞれの当番や発表の時間以外は自由行動なので、聴きに来てくれる人が多いと良いな。


 今日は土曜日。部室での定時演奏なので特に問題は起きないと思う。


 机や真知子先生の私物は暗幕でしっかり隠した。朝の準備中に生徒会長が様子を見に来て、良いね、と親指を立てて去って行った。お墨付きを得たってことで良いよね。


「今日は10時11時13時14時の4回公演ね。北高祭プログラムに演奏場所や時間を載せられなかったから、今からビラ撒きに行ってくる」


 香風は手書きのビラの束を持ってきていた。


「軽く練習しといて!美咲、一緒に行こう!」

「このビラどうしたの?」

「手書きで作ってさっき職員室でコピーさせて貰った。コピー代は同好会費から引かれるんだけど…」

「構わない、香風、ありがとう。そういうとこまで頭が回ってなかった」


 あたしと香風はビラ撒きに出た。すでにミニライブの評判を聞いて「見に行くよ~」と言ってくれる人が多かった。公演時間を知らせることが出来て良かった。ビラ撒きで効率のいい集客を考えた香風はさすが現役アイドル兼あたしたちのプロデューサーだ。


「お客さんいっぱい来そうよ!あんたたち緊張してないわよね?」

「大丈夫!」


 そしていよいよ1回目のライブ。30席では足りなくて立ち見まででた。あたしはスマホカメラで撮影開始。いいのが撮れそう。


 1曲目でいきなり、


「L・O・V・Eラブリーみこちゃん」


 男子からまどろみさんに声援が送られる。まどろみさんの歌い方は本当に艶っぽい。負けじと女子も、


「お前が一番、お前が一番、亮くん一番愛してる」


 と声援を送り始めた。この声援、ぜんぜん曲に合ってないよ。

 そして誰かお願い、お嬢を褒めて称えて。


「これはいけるっ」


 そう言うと香風は部室を飛び出し全力で走って行った。いけるって??3曲目の途中で香風は息を切らして戻ってきた。


「なにこれ?」

「握手券よっ。昼休みと4回目のライブの後に握手会やるわよっ。1回50円、北高祭の金券1枚分だから良心的な値段でしょ?同好会費を稼ぐのよ」

「ちょっと待ってよ、これコピー代幾らしたのよ?」

「先行投資よ、それ以上に稼いだら利益になるわ」


 さすが香風だ。悪徳プロデューサー現るだあ。


 演奏が終わると拍手喝采、良かった大盛況だ。


「握手会もやるわよー!このノリで握手券買っちゃいなさいよ!」

「え?」


 まどろみさんとお嬢と亮は「聞いてないよ」という顔をしたが、悪徳プロデューサーの勢いは止まらない。


 男子がノリで握手券を買ってくれた。ノリだよね?ノリなんだよね?


「誰のとこ並ぶ?」「もちろん、みこちゃんだよ」


 そんな会話が聞こえてきたけど、お願い、お嬢のとこにも並んでよ。


 女子は握手券には興味を示さなかったけど、


「日之池くん、握手よりも一緒に写真撮って~」


と言い出した。


「こら、そこっ。ツーショットは2千円よっ」

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