第96話 未来は自分で作るもの

「でも、もし亮と私が付き合ったら、今の環境が変わってしまう。この先もずっとこのままで居られたら良いのに、違う未来が来てしまう」


「そう?今も実質付き合ってるようなもんじゃない。環境は変わらないと思うわよ」

香風このか、本当にそうか?私が変わらなくても亮が変わるかも知れない。付き合ったことで環境が変わって未来が変わってしまうかも知れない。今のままが良いのに変わってしまうのが怖い」

「大丈夫よ、変わるとしても人前でいちゃつく度合いが増えるだけでしょ。もしかしたら教室でも膝の上に座れるようになっ…」


 宮子はポテトを何本かつかんで香風の口に押し込んだ。


「うぐうぐ」


 未来が変わる。今のままが良いと思うまどろみさん。付き合うことで今とは違う環境になるのが嫌なんだ。


「だから最近、亮が告白してきそうな素振そぶりを見せたら話をそらしている。亮もそれに気付いてるみたいで…申し訳なくて」


「未来が変わるとしても、今より良い方向に変わるって考えようよ~」

「そうだよ、真知子先生が言ってたじゃない、今の出来事が未来の自分を形作るって。だったら、良い形を作ったら良いんだよ」


「私はずっと友達が居なかった。入学式の日にQRコードで友達を作ることで今の未来を手に入れた。だから今すごく楽しくて幸せだ。今の環境を壊したくない。変えたくない。付き合うことで変わってしまったら、取り返しが付かない、それが怖い、動けないんだ、ここから先に進めない…」


 まどろみさんの乗り越えたい事はそれなんだ。


「だから付き合うことで変わったりしないっての。今と変わんないんだから」


 ポテトを飲み込んだ香風が言った。


「少なくとも同好会の中は何にも変わんないっての」


 あたしもそう思う。


「でも…もし亮とうまく行かなくなって別れるようなことが…」


「黙りなさいっ」


 お嬢とは思えない語気の荒さだった。


「黙って聞いていればうだうだと、うまく行かなくなるなんて思わないでくださいっ。まどろみさんは亮くんのことどう思ってるんですか?好きなんですか?嫌いなんですか?」

「…好きだ」

「だったらずっとうまく行く、それを未来の自分の形にしなさいっ」

「ちょ、ちょっとお嬢」


 お嬢は自分のピアノのことと恋愛のことについては厳しい。


「私達の友情は、そのことに影響なんて受けません。どんな未来でも変わりません。心配しないでください。だから自分の気持ちを貫いてください。何もせずに後悔するより、何かをしてから後悔してください、弱虫っ」


 お嬢、ダメだよ、弱ってるまどろみさんにそんなキツく言ったら。


「おお~」


 でも、周りのお客さんが拍手してくれた。恥ずかしいよ…え?


 その中に帽子を被ってサングラスをかけ、すごく中途半端な変装をした真知子先生が居た。


「せ、先生どうしてここに?!」

「は?私はお前たちの顧問だ。何か有りそうならどこにでも飛んでくるぞ。知ってるか?各種SNS上に北高の制服が映り込んだポテトの山がアップされている。このあたりでマク○ナルドと言えば駅前、こんなことをするヤツは、お前たち以外に居ない。場所と人物が特定できたんだ、簡単に飛んでこられたぞ。さあ、わたしも祭りに混ぜろ!」






※注 大量のポテトを口に押し込むと窒息などの危険が有ります。また長いポテトが喉にあたる可能性もあります。決して真似しないでください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る