第60話 恋バナ ③ 小清水泉

「じゃあ次は…ポテトのくじ引きで、と行きたかったけど、ポテト全部食べちゃった」


 宮子はキョロキョロとあたしたち残り3人を見て、


「じゃんけんだね~」


 素直にじゃんけんをするあたしたち。不思議と宮子のペースに巻き込まれる。


「じゃあ次は私ですね」


 お嬢が負けた。小学校から女学館じょがっこだったから、これまた恋バナは無いかもしれないなあ。


「お嬢はずっと女子校だったから恋愛経験は無いよね~」

「私ですか?お付き合いをしたことはありますよ」


 えっへんと得意気になるお嬢。うん、わかる、宮子と香風このかの恋バナの後だから自慢になるよね。


「え?そうなの?女学館じょがっこの時だよね、他校の男子と?」


 前のめりで話に食いつく宮子。


「いえ、そうではありません」

「え?じゃあ女学館じょがっこの人と?」

「はい、そうです。先生と」

「うわぁ、ほんとに?まさかの禁断の恋ってやつだね~」


 もしかすると優秀だったお嬢がすんなりと外部進学出来たのは、これが原因だったのかも。


「禁断?…いいえ、清い交際でしたよ。一緒に映画を見たり、USJに行ったり、高校野球も見に行きました。楽しかったなぁ…」


 遠くを見るような目で過去を振り返る。


「今は?過去形なの?」

「はい、ある日突然、先生は転任したんです。その後は連絡も取れなくなりました。誰に聞いても転任先も連絡先も教えてもらえなかった、なんでだろう…。あの時は悲しかったな…毎日枕を濡らしました。9回裏までずっとリードしていたのに逆転サヨナラホームランを打たれてマウンドに崩れ落ちるピッチャーくらいショックで悲しかったです」


 すごく悲しそうな顔をするお嬢。辛い別れだったんだろうなあ。野球の例えはよくわからないけど…。

 でも、きっと転任の原因は禁断の恋だ。お嬢はわかってないみたいだけど。先生が学校を去ることで、お嬢は学校に残れたんだ。


 お嬢は昔を懐かしむように言った。


「ふざけて抱きついたりすると、お胸の大きい先生で、弾力があって気持ちよかったなあ、ぼよ~んって。淡くても真剣な初恋でした」

『ん?』


 ぼよ~んって?


「ええと、お嬢、それは太った男の先生ってことだよね?」

「いいえ、スレンダーな女の先生でした」

『そうなんだー』


 それを否定する気はさらさら無いけど、びっくりした。うん、只々ただただびっくりだ。


「思い出の多い学校に居るのも辛かったし、高校野球が好きだから、親や学校の勧めもあって野球部のある高校にしたってわけです。そのおかげで皆さんと出会うことが出来て嬉しいです!」

「そっかあ、うん私たちもお嬢と会えて嬉しいよ。時間あるときは野球部見に行こうね~。良い男を探そう、応援するよ!」

「はい、次は先生じゃなく同じ年頃の人と恋愛しますよ!」


 お嬢、次は同じ年頃の人と恋してみようね。


「切ないけど良い恋バナだったね~。まあ画面越しにしか会えない私のほうが切ないけどね」


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