第56話 歌えるように
「じゃあ私は譜面の印刷を先生に頼んでくるよ」
「あ、俺も行くよ」
亮とまどろみさんは職員室に向かう。
あたしと宮子、
「ちっ、手くらい繋げっての」
「まだ微妙な感じだね~、それよりも美咲!ハミング良かったよ~。嬉しかった。歌えるようになったら良いな…」
涙ぐむ宮子、ハミングとは言え、美咲が歌ったのは小学生のとき以来。
「私が指導する以上、美咲さんも香風さんも歌えるようにしてみせます。任せてください」
「お嬢…あたしが歌えないって知ってたの?」
「あ、ええとですね…」
「ごめ~ん、私が相談したんだ。美咲に歌を取り戻してって」
「そうなんだ、うん…ありがとう。頑張るよ」
「「マリーゴールド」は音域が狭めの曲なので、お2人の練習に向いています。「糸」はテンポがゆっくりなのでリズムを取りやすいし、音域が低めなので、声の低い美咲さん向きです。楽譜が来たらそっちでも練習してみましょうね」
「うん!」
「じゃあそれまでは、まずリップロールをします。唇を閉じたまま息を吐いて唇をプルプル震わせてください。コツは恥ずかしがらない事です」
プルプルプルプル。
「それをお
アー。
「次はドレミファソファミレドの音階に合わせて、声を出してママママ…と歌ってください。小学生のとき音楽の授業でよくやったやつです。コツは恥ずかしがらない事です」
ママママ…。
「ママばかりじゃ不公平ですね。パパパパ…も有りです」
ママとパパって。真剣に練習していたあたしは思わず吹き出した。なんだかリラックスできる。
「いずれは音階を半音上げたり下げたりしますが、今は同じ音階で。音がズレても気にせずに口を大きく開けて大きな声でやってください。次は、あえいおう~、です。これはだんだん口の大きさが小さくなって行くことを意識してください」
あ・え・い・お・う~。
「コツは…」
『恥ずかしがらない事!』
「です!ここにいる人は、上手くなくても誰も笑ったりしません。楽しくやりましょう。私もうっかりすると厳しくなるので気をつけながらピシッとやります」
「事務所の発声練習は厳しかったから楽しくなかったのよ、泣いて帰ったこともあるわ」
「一応プロだもんねえ」
「一応じゃないわよっ。お金をいただいて活動してるからプロなのよっ」
「じゃあ口パクはホントにマズいよね」
「はうっ」
「では「マリーゴールド」をハミングでやりまーす。宮子さん、手拍子お願いします」
「おっけー」
宮子は美咲が前向きになったのを見て本当に嬉しかった。
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