第42話 亮と千歳

 小学生の時からバスケをやっていた亮は、中学でもバスケ部に入った。身長も高くイケメン、バスケも上手い。最初から目立つ存在だった。


 2学期になって転校してきた千歳ちとせは、女バス(女子バスケ部)の友達に誘われバスケ部の見学に行った。

 体育館の半面は女バス、その隣の半面では男バスが練習をしていた。


 千歳の目は女バスの練習よりも亮の動きに惹きつけられた。一目惚れをした瞬間、千歳の初恋だった。


 その日のうちに女バスへの入部を決めた千歳、運動が得意ではない千歳は、少しでも亮に近づきたいと思い、放課後になると真っ先に体育館に行き、部活が始まるまでの少しの時間、自主練に励んだ。


 何度も亮に話しかけようとしたが、内気な千歳にはそれが出来ず、ただ憧れの存在、その姿を見ているだけで気持ちを満足させようとしていた。


 そんなある日、部活が終わり片付けをしていると亮が話しかけてきた。


 いつも懸命に自主練をしている千歳は目立っていたので、バスケの好きな亮はドリブルやドライブのコツなどを教えた。


     ◇


「なんで急に声を掛けたの?気になってた?」

「気になってた。ものすごく練習してるのに、どんくさいから何ともならない。見てて歯痒いからコツを教えてみようと思って」

「あ~、そうなんだ~、温度差があるね~」


     ◇


 2人は帰る方向が同じだったこともあり、部活終わりは仲間とともに一緒に帰ったり、休みの日は2人で遊びに出掛けたりもした。バスケの話、友達の話、転校して来る前に住んでいた街の話、亮はいつも楽しそうに聞いていた。


 亮は男友達と同じ感覚で接していた。しかし千歳は違った。淡い初恋、憧れ、そんな気持ちがだんだんと膨らみ、恋心は深まって行った。


 周囲の誰もが付き合っていると思うくらい仲の良かった2人だが、告白をしたことも、されたことも無かった。そんな関係性が学年が変わっても続いていた。


 2年になってから千歳と同じクラスになった香風このかは、千歳から亮の話をよく聞かされたが、付き合って無いということに驚いていた。


 確かなものが欲しい。千歳は思うようになっていた。


 香風は、バレンタインデーに告白をするように勧めた。振られることは無い、大丈夫だという確信のもとに。


 しかし、亮は千歳を異性の親友としか思っていなかった。千歳は振られた。


     ◇


「それはひどい…」

「でも友達と付き合うとか考えられないよ。例えば美咲さんと宮子さんが付き合うとかある?」

「あたしたちは同性じゃない、異性の場合と違うでしょ」

「そうかなあ、異性でも友達は友達だよ、同性で付き合ってる人も居るし」

「…うーん?」

「それにあの頃はバスケが彼女だったし」


 モノや行為を彼女って言う人ほんとに居るんだ。


     ◇

 

 自分のひと言で2人の関係を壊してしまった。香風は責任を感じ、亮を激しく責めた。

 しかし2人の間に出来た亀裂は修復できず千歳はバスケを辞めた。


     ◇


「それでその後はどうなったの?香風の話だと千歳さんは病んでしまったって事だけど」

「そのあとしばらく、香風は事あるごとに俺に絡んでくるようになったよ。あいつは酷い男だって周りにも言ってまわってたし」

「千歳さんは?」

「うーん…これは誰にも言わないでくれよ、その後しばらくは夜、家に帰って部屋の灯りを点けると非通知の電話がかかってきたり、朝起きたら非通知の着信履歴が50回くらい残ってたり…」

「ストーカー化したってことじゃん」

「いや、千歳がやってるとは限らない、香風かも知れない」


 香風はそんな間接的な事はしないだろう。きっと千歳さんだ。


「学校で顔を合わせることもあったでしょ?」

「ばったり出くわしたときは、顔を赤らめて恥ずかしそうに微笑んで、もじもじしてたなあ」


 あたしは他人事のようなその冷たい言い方に腹が立った。


「あんたね…」


 まあまあと宮子に止められた。


「美咲~、言いにくい話をしてくれてるんだから怒るのは無しだよ~、つまり…」


 亮のほうを向き、


「ヤンデレ属性が付いたのね」

「そういうことだな」

「それで亮くんはなんでバスケを辞めたの?それが原因?」

「うん、結果的に千歳を深く傷つけたから、バスケとは別れようと思った」

「なるほどね~、今は?バスケとは別れてギターと付き合ってるの?」

「まさか、もうそんな中二病みたいなことは言わない」


 ヤンデレ?中二病?あとでウィ○ペディアを調べよう。


「良かった~、じゃあもう一つ聞かせてね。まどろみさんをどう思ってるの?」


 ちょ、ちょっと宮子、それ今聞くの?!

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