第39話 祭りのあと

 目の前にあった目標が突然終了する虚脱感。気の抜けた状態になった。

 同好会を立ち上げるという目標は達成されたのだが、達成感や喜びは薄く、むしろこれから先どうするのかという不安感が強かった。

 これから先は、放課後に皆が集まるこの部室でそれぞれがバラバラなことをしていくのだろうか…。


 真知子先生が職員室に戻ったあと、部室には静寂が訪れた。


「お茶入れるね」


 独り言のようにつぶやき、美咲は電気ポットでお湯を沸かす。ぶくぶくとお湯が沸く音が部室に響き、遠くからは運動部の掛け声や吹奏楽の音が聞こえてくる。

 入学してから今日までの怒涛どとうの日々が終わり、そこに訪れた祭りのあとのような静けさは夕方の部室に物悲しい雰囲気を作った。


 亮が口を開いた。


「これからどうする?」

「私は少し寝る」

「いや、今日どうするかじゃなくて…」


 部長としての緊張の糸が切れ、溜まっていた睡眠不足にあらがえなくなった微睡びすいは机に突っ伏して寝始めた。


「あたしたちの為に頑張ってくれてたし寝かしてあげようよ。寝てても記憶されるからきっと大丈夫」


 美咲は日本茶を皆に出しながら言った。


「私はピアノレッスンの無い日はここに来たいなあ。たまには野球部を見に行きますけどね」

「今日は行かなくていいの?」

「今日はここに居たいです」


 泉はお茶をふうふうと冷ましながら飲んだ。

 北山高校はいずれかの部活に所属しなければならないが、幽霊部員となって顔を出さないことは可能である。しかし泉は部室に来ることを選んだ。


「あたしもそうね。スマホを持ってあちこち写真を撮りには行くけど、1日1回は顔を出したいな。みんなにお茶を入れてあげる」

「俺も来るよ。ギターの音を思いっきり出して練習できるし、なにより放課後ここに来るのが日課になってる」


 美咲も亮も部室に来ることを選んだ。


「まどろみさんもきっと来る。だから明日…明日は泉がピアノレッスンか、じゃあ明後日、部長が起きてるときに今後の活動方針を決めよう、それで良いよね?」

「さんせ~い」


 そうだ、美咲さんが歌を歌えるようにするのを次の目標にしたらどうだろう。

 でもこの話は美咲さんが居ない時にしなきゃな、亮は思った。


 職員室。


「よく考えたまえ」などと格好付けて部室を出たが、しまった、もう一杯コーヒーを飲んどくんだった。今さら戻りにくいしな。みんなが帰ったあとで、こっそり飲みに行こう。

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