第42話





「伝説の探偵さんん。神住さんと呼びましょうかあ。優しかったですよお。その他にもお、事件の話をしてくれたりしましたあ」


「……もういいよ」


「ええ? 興味無いんですかあ? 今はもう会えていないんでしょうう? お話を聞きたいと思ってえ、しているんですけどお」


 今湊さんが性格悪く、緋郷を攻撃している。

 りんなお嬢様にいじわるをしていたのが、よほどお気に召さなかったようだ。


 さすがに緋郷が可哀想になってきたので、僕は助け舟を出すことにした。


「その時の写真とかって、あるんですか?」


「どうしたんですかあ? 急にい。今までえ、私よりもモブモブしていたのにい」


「いやあ、気になったからですよ」


 まだいじめ足りなかったのか、今湊さんは不満げな顔をしたけど、しかしもう止めてくれるようだ。


「写真ですかあ、あまり撮った覚えが無いんですけどお。ありましたかねえ?」


「ただいま、探してまいります。少々お待ちください」


 春海さんが部屋を退出し、少しの待ち時間が出来てしまった。

 それは予想できていたことなのに、全く考えていなかった僕が悪い。

 だからこそ、別の話題を提供しなくてはならない。


「あ、あの。先ほどは、来栖さん達に関して許可をしていただいて、ありがとうございました」


「お礼を言われる覚えはないわ。私がしたいように、行動をしただけよ」


「それでも、僕と来栖さん達は救われましたから。お礼を言わせてください」


「そう」


 お礼を言ったおかげなのかどうか、りんな嬢様の調子は元に戻ってきたようだ。

 僕は安心して、今湊さんの様子もうかがう。

 彼女も、怒りが静まってきたらしい。

 いつもの緩い雰囲気に変わっていた。


「お兄ちゃんはあ、本当に普通の人ですねえ。いい人ですよお。何でえ、こんな人とお、一緒にいるんですかあ。この島にい、一緒に住みましょうよお」


「あー、それはですね。何でかって言いますと……まあ、色々ありましたから」


「ええ。男同士のお、いけない関係ですかあ。それはそれはあ、気が付かないですみませんでしたあ」


「そういうわけでもないんですけど」


 緋郷との関係性なんて、短時間で語れるものではない。

 だから口ごもっていたら、よく分からない邪推をされてしまった。

 慌てて否定しても、生暖かい目を向けられる始末。


「そういう関係じゃないんだったらあ、もう少しこの島にいてくださいよお。明日で帰っちゃうなんてえ、寂しいですものお」


「そ、それは、まあ、えーっと」


 今湊さんに言われ、僕は滞在期間の延長を少し考える。

 しかし返事をする前に、緋郷が僕の腕を掴んだ。


「駄目だから。俺とサンタは、一緒に帰るの」


 いつになく真面目な様子で、今湊さんを睨みつける。

 そして、有無を言わさずといった感じで、僕を引き寄せた。


「ぐふふう。ぐふふう。やっぱりい、そういう感じでしたかあ。邪魔をしてすみませんでしたあ」


 今湊さんは、完全に誤解をしたみたいだ。

 もう何も言えなくて、僕はとりあえず笑っておいた。

 こういう時、笑っていれば何とかなる。

 今回は、何とかならない可能性のほうが、ずっとずっと高いのだけど。


 勘違いされてもいいや、どうせ明日帰ったら会うことは無い。

 僕は緋郷が掴んでいる腕の上に、自分の手を重ねた。


「ちゃんと帰るからさ。少しは落ち着いた?」


「いや、元から落ち着いているからさ。何言っているの? サンタ?」


 時間が経って調子が戻ってきたようで、馬鹿にしたような口調で手を外してくる。

 これは緋郷なりの照れ隠しだと分かっているから、元気になったようで安心した。


「お待たせいたしました」


 ちょうどいいタイミングで、春海さんがアルバムを両手に持って帰ってくる。

 そこまで時間がかからなかったから、もしかしたら分けておかれていたのかもしれない。


「こちらが、神鳥谷様が滞在されていた時に、撮影した写真がおさめられたアルバムでございます。神鳥谷様が写っているかどうかは分かりかねますが」


 あらかじめ断ったのは、写っていない確率の方が高いからか。

 テーブルに置かれたそれを、誰も手を出す気配がないので、勝手ながら僕が代わりに開いた。


 真っ先に現れた写真は、この屋敷の外観のものだった。

 今よりも新しい感じはするけど、メイドさんの手入れがいいからか綺麗さは変わらない。

 しかし、この写真には誰も写っていないから、特にじっくりと見るものではない。


 僕はページをめくる。


「お、これは、もしかして……」


「ああ。私ですねえ」


 次に写っていたのは、とても小さな可愛らしい女の子の姿だった。

 寝ぐせはあるけど、まだ幼いからだらしないというよりも可愛い。

 どことなく面影があるから、今湊さんだというのはすぐに分かった。


「えっと、何をしているところですか?」


「これはあ、私があ落とし穴を掘ってえ、それに自分でかかったときのものですよお」


「随分とアグレッシブだったんですね。なんとなく想像できます」


「えへへえ、可愛いでしょお」


「そうですね」


「……えへへえ、えへへえ」


 自分で言うことではないけど、確かに可愛いので同意しておく。

 そうすると自分から言ったくせに、照れているのだから面白い。


 さて、神鳥谷さんとやらは、どこかの写真にいるのか。

 次の写真を見た僕は、少し固まった。


「……えっと、これは……?」


 そこには、またしても幼い女の子が写っていた。

 ドレスのようにひらひらとした服を着ている姿からは、りんなお嬢様なのかという予想になるのだが。


「とても、そっくり、ですね」


 その顔は、春海さんや千秋さんや冬香さんなどの、メイドさん達によく似ているような気がした。




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