第33話
「昨夜、私はここにいる相神さん、サンタさん、鷹辻さん、槻木さん、今湊さんと一緒にトランプをしていました。その途中、今湊さんは眠いからと離脱して、そこから少しの時間が経った頃に、姫華様から連絡がありました。その時はちょうど、メイドの方々がいらっしゃらなかったので私が出ました」
来栖さんはトップバッターに選ばれたからか、少し話しづらそうにしている。
しかし犯人を見つけるために、何も無かったと楽な報告をするつもりはないようだ。
「電話の内容は、姫華様の歯ブラシが見つからないとのことでした。荷物は私が用意いたしましたので、姫華様が分からなかったのは当然のことでした。しかしトランプに夢中でそれを忘れてしまい、恥ずかしながらとても怒られました」
話している途中で思い出してしまったのか、彼の顔色はどんどん悪くなっていく。
それでも話を止めさせる人は、誰もいなかった。
「ピンク色のバッグの中に入っている。それを伝えると、すぐに電話が切れて、私は部屋に戻ることも考えましたが、私の顔を見るのもすぐには嫌だろうと思いまして、トランプを続けました。トランプが終わったのは確か……正確には言えませんが一時が過ぎた頃でしょうか」
視線で同意を求められたので、僕は頷く。
トランプで残っていたメンバーは、誰も正確な時間を覚えるタイプではない。
だから何となくとしか言えないが、それでも分からないよりはましか。
「別館までは全員で行動し、それぞれの部屋に戻りました。その際に姫華様に挨拶をしておこうと思い、部屋に入ろうとしましたが鍵がかかっており、眠っていると判断して声はかけませんでした。このことから姫華様が殺されたのは、私が鍵がかかっていると確認してから、今日姫華様の死体が見つかるまでの間だと考えています。……私が報告出来ることは以上です」
来栖さんの報告は、これで終わった。
あまりにも少ないと思ったが、鳳さんが殺されて、ショックから動けなかったのだと考えれば、当然の結果か。
「ありがとう。それでは次に飛知和さん、報告をしてくださるかしら」
「はい」
情報の少なさには誰もつっこまず、来栖さんの隣に座っている飛知和さんに順番が回った。
彼女はこれまでとは違い、自信に満ち溢れた顔をしている。
先程までの取り乱しようが、嘘のようだった。
そして何故か、言われてもないのに椅子から立ち上がる。
その様子に、嫌な気配を感じた。
「色々と話しをしたいことがありますが、まずは結論から申し上げましょう」
彼女は話をしながら、まっすぐに緋郷に人差し指を向けた。
「鳳さんを殺したのは、あなたでしょう。相神緋郷さん」
完全に断罪する気満々だ。
「んー? 俺?」
指をさされた緋郷はというと、驚いた様子もなく、ただじっと飛知和さんを見つめる。
何かを訴えようとしているのではなく、ただ単に誰だろうと考えているのだろう。
しかし視線にさらされた飛知和さんは、大げさなぐらいに震える。
「そ、そうよ。あなたが、鳳さんを殺したことなんて、すでにお見通しなんだから」
「ふーん、その理由は?」
緋郷はうろたえることなく、理由を尋ねる。
その口元には笑みがかすかに浮かんでいるから、どう見てもこの状況を楽しんでいる。
「り、理由は、その落ち着き払った態度よ。鳳さんが殺されてから、あなたは生き生きとして楽しそうにしているわよね。人が一人殺されているのよ? どう考えても、おかしいでしょ」
飛知和さんは、そんな緋郷の態度にも怯むことなく、頑張って話を続けた。
「それに、殺された人を好きになるって、どういうことよ。自分が殺したから、そんな頭の狂ったことを言い出したんじゃないの?」
確かに彼女の言っていることは、一般的に考えて正しいのかもしれない。
しかし僕の立場からすれば、その言葉は完全に間違っている。
間違っていることを、とても自信満々に言っていて、恥ずかしくないのかな。
僕はそう思いながら、二人の様子を見守っていた。
「この中に犯人がいるのだとしたら、私は絶対に彼が犯人だと思うわ。そうでしょ」
これといった確実な理由は言わずに、彼女は話を一段落させた。
ほとんど勢いでしかなかったけど、意外にも馬鹿にする人はいないようだ。
緋郷のことを、きちんと理解している人は僕しかいないから当たり前か。
それに今までの経緯を思い返すと、緋郷のイメージは大分悪いはずだ。
それでも全員が全員、疑っているというわけでは無い。
りんなお嬢様とメイドさん達三人は、あくまで第三者として傍観する立場でいるらしい。
今湊さんはニコニコと笑っていて、明らかにどう対応するのかを試そうとしている。
その一方で、遊馬さんは緋郷と僕に対して不審な目を向けてきている。
そして鷹辻さんは、どうしたらいいのか迷っているみたいだ。
目が合うと、視線をそらされてしまう。
槻木君は、何も言わず視線も合わない。
これは、僕達の分が悪い。
この先の未来が容易に想像できてしまい、僕は深くため息を吐いた。
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