#68 Choker
「……愛歌、どのくらい戦える?」
緤那達にも聞こえない音量で、エリザは愛歌に問いかける。
「……エリちゃんには隠せないか……本当はウルトラマンみたく3分って言いたいけど、多分3分も持たない。正直今すぐにでも変身解除してここから逃げたい」
愛歌とセーラの同調率は極めて低い。故に融合時には全身に激痛が走る。初変身の際、愛歌は融合時の痛みを乗り越えた気でいた。しかしそれは、度を超えた痛みに痛覚が麻痺しただけであり、実際には変身中にも痛みを伴う。そして今、愛歌の痛覚は麻痺しておらず、融合時の痛みを継続して身体全体で味わっている。長時間は戦えない。
「1分……いや、1分半耐える。その1分半でセルカを殺す」
「……分かった。緤那や文乃達の分も、私が戦う」
愛歌は大鎌に、エリザは鉄扇にライティクルを集約させ、セルカの数メートル手前で攻撃を開始した。
「セルカ! あなたの罪……私が断つ!」
先に動いたのは愛歌。能力の断罪を発動し、大鎌でセルカに攻撃をした。それに対しセルカは新たなアクセサリーを3つ取り出し、うち1つを赤いガントレット、うち1つを白いハイヒール、うち1つをチョーカーに変化させた。
「能力、未来予知」
セルカは自らのを発動し、「愛歌がXを描くように2度鎌を振る」未来を予知。その後、セルカは左手に装備したガントレットにライティクルを集約させながら、愛歌の鎌の軌道上に拳を突き出した。
「能力、反射」
セルカが発動したガントレットの能力は反射。相手の攻撃を反射させる。しかしこの能力は相手の攻撃の度に発動する必要があり、持続させることは不可能。
とは言えその1度の反射で、愛歌は不覚にもバランスを崩し、攻撃も防御もできない最悪の体勢になった。そしてその瞬間、セルカは銃を構えながら、ハイヒールにライティクルを集約させ新たな能力を発動。
「能力、座標」
ハイヒールの能力、座標。この能力は他の能力とは異なり、敵にダメージを与えられる能力ではない。ただその代わり、能力により指定した座標に物体Aを強制的に移動させることができるため、仲間のサポートや逃亡に長けている。
セルカは座標を愛歌の眉間に指定し、指定したと同時に引き金を引いた。アクセサリーでの銃は普通の銃とは異なり、銃弾の補填が必要ない。なぜなら放つのは鉛玉ではなく、ライティクルを凝縮した光弾。とは言え威力は鉛玉に劣らず、当たれば確実に骨も筋肉も貫く。そんな光弾に座標の力が加われば、何かしらの能力で防がれない限り確実に対象を撃ち抜く。
銃口から放たれた光弾は、指定された愛歌の眉間に向け加速する。しかし愛歌を守るかのように乱入したエリザが光の刃で光弾を防ぎ、直後にスキルの色彩反転を発動。エリザの中に在る数々の能力から選んだのは、かつてコピーした時間飛躍。
時間飛躍は現時点からn秒後の地点に移動するというもので、時間に干渉できる数少ない能力の一つである。
そしてエリザは時間飛躍を色彩反転で効果を変化させ、時間飛躍を元々使っていたプロキシーを殺した時と同じ能力を発動した。
「色彩反転!」
「っ! ぅぶ、がはっ!」
時間飛躍の反転は、現時点からn秒前の時間に干渉し、n秒前の敵に攻撃する事ができる。エリザは3秒前のセルカの腹を切り裂き、セルカの腹は突如開いた。
セルカは、アイリスの能力であるコピーを知っている。しかしエリザのスキルまでは知らず、自らが把握していない能力をエリザか
使ったことに驚愕した。否、それ以上に、突如自らの腹が裂けたことが衝撃。
斬られた記憶はない。斬られた感覚もない。仮に未来予知を使っていたとしても、過去に干渉したエリザの攻撃は止められなかったのだろう。
「愛歌!」
「うん!」
エリザの合図を受け、体勢を立て直した愛歌が再び能力を発動した。
「断罪する!」
愛歌が振り下ろした刃はセルカの両腕を切り落とし、同時に能力"断罪"の効果でセルカの未来予知が無効化された。
さらに愛歌は鎌にライティクルを集約させ、全身に走る激痛に顔を歪めながらスキルを発動。
「パニッシュメント……デスサイズ!」
愛歌の鎌はセルカの胴体を裂く。直後に傷は回復し、次に腕ごと胴体を斬る。攻撃、回復を繰り返すこと8回、遂にセルカの身体の回復は止まった。
「セルカ……あなたの罪がどれくらいの重さなのかは分からない。だからここにいるプレイヤーの数だけ斬った。もう戦おうとなんてせず、大人しく死んで……」
8回目の斬撃で、セルカの身体は肘付近から真横に切断された。上半身と下半身が離別し、且つアクセサリーを掴む為の手も離れた。まだ生きてはいるが、この状況ではセルカに正気はない。
その瞬間、緤那達は勝利を確信した。ただ1人、エリザだけがセルカの簡単すぎる死を不審に思っていたが、喜ぶ緤那達に合わせるため肩の力を抜いた。
「あ……」
「愛歌!」
セルカを倒せた安心感から、愛歌の身体から力が抜け、痛みに耐え続けた身体は限界を迎えた。
融合は解除され、視界はまるで白黒のモザイクがかかったように遮られた。吐き気もする。頭痛もする。そして気付いた時、愛歌の身体は既に傾いていた。
「姉さん!」
慌てて駆け寄る文乃。それに続き焔達も駆け寄るが、傾いた愛歌の身体は地面に激突。その際頭を強く打ち、そのまま愛歌は気絶した。
◇◇◇
「セルカ、もう死んじゃったね」
空き地の近くにある廃屋の屋根の上で、カナンとアランは戦いを傍観していた。
「……いや、あれはまだ死んでないね。ほら見て、セルカが首に着けたチョーカー、まだライティクルが集約してる」
アランの指さす先を見るカナン。アランの言った通り、セルカの首に装備したチョーカーにはライティクルが集約されている。死体はライティクルを集約させられないため、それだけで生きていると判断できる。
「あ、ほんとだ……けど身体バラバラになっちゃったし、生きてても戦えないんじゃない?」
カナンの問いに対しアランは少し黙った。しかしチョーカーに宿る能力の内容に気付いたのか、アランは口元に笑みを浮かべてようやく返答した。
「いや、戦えるよ。だってあのチョーカーの能力、多分あそこに居るプレイヤー達は誰も知らないから」
「どんな能力なの?」
「それは見てのお楽しみ。さぁて、あのアクセサリーを装備したセルカに、アイリス達はどう立ち向かうのかな……」
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