《51》 戦闘能力

「はっ!」


 能力でプロキシーの背後に瞬間移動し、アキレス腱をナイフで切断する舞那。

 立てなくなったプロキシーを、理央が銃で撃つ。

 何体かは致命傷を逃れ、かろうじて生き延びている。数の多さに気を取られ、理央と舞那はそれに気付いていない。


「邪魔だっての!」


 しかしその生き残りも、舞那を追いかける心葵によって絶命。

 ハルバードを振り回しながら校舎内を走り回るため、校舎内は心葵によりダメージを受けている。

 そんなこと気にするはずもなく、心葵は舞那を追う。


「舞那!」

「心葵!?」

「っ!!」


 前方に舞那の姿を確認した心葵は、思わず舞那の名を叫んだ。

 その声を聞いた舞那と理央は一瞬動きを止め、荒れ狂う心葵の方を見た。


(色が変わってる……)


 舞那の反応で、荒れ狂う灰のプレイヤーが、かつてナイフを突き立ててきた橙のプレイヤー、心葵であると理解した理央。

 しかし理央の中には怒りや復讐心は無く、アクセサリーの色が変わっていることだけが気になった。


「手伝いに来たよ! それにしても、この数はさすがに異常でしょ! しかも見たところ、全員灰色!」


 心葵は校舎内のプロキシーを殺しながら、その数の多さに対する感想を述べる。

 心葵と舞那の距離はまだあるため、声は大きめである。


「口より先に手を動かす!」

「おっけー!」


 しかし舞那の一声で心葵は感想、その他の発言を自重した。


(あれ? こんな人だったっけ?)


 名前で呼び合うだけでなく、舞那の言葉に素直に従う心葵を見て、理央はかつて見た心葵の姿との相違に混乱する。

 その後も3人は会話することなく、ただプロキシーを殺すことだけに集中した。


 ◇◇◇


「うぉりゃあああああ!!」


 右手の鎌に光を集約させ、回転しながらプロキシーの群れを切り裂く。

 ある程度回ったところで停止し、今度は槍に光を集約。さらに黒の能力である飛行を使用し、斜め後方に飛び上がった。


「はああっ!!」


 槍をプロキシーの群れに投げる。

 光を集約させた槍はプロキシー達を貫き、勢いよく地面に突き刺さる。

 龍華は再度鎌に光を集約させながら、槍の方へ向かって飛行する。

 攻撃を避けるためであれば、ある程度の高さを保ち飛行する必要がある。しかし龍華は敢えて低空飛行している。

 なぜならば、飛行しながら鎌でプロキシーを切り裂くである。

 龍華はプロキシーを切り続け、槍の突き刺さった場所まで到着した。その頃には龍華の通った跡は血塗れで、龍華自身も返り血を大量に浴びている。


「はあっ!」


 負けじと雪希も七支刀でプロキシーへの攻撃を続ける。

 先程までは属性操作と高速移動を同時に使っていたが、残り体力を考え高速移動だけを使用している。


(凄い……2つの大きいアクセサリーを難なく使いこなしてる。アクセサリー拾ってすぐの舞那に負けたって聞いたけど……戦闘能力だけなら舞那を遥かに上回ってる)


 雪希の考えは正しく、アクセサリー固有の能力を除けば、龍華の戦闘能力は舞那どころか雪希すらも上回っている。

 元々戦闘能力が高い龍華がアクセサリーの力を得れば、強くなるのは当然のことである。


「おおっ!」


 龍華が槍を地面から引き抜いた瞬間、槍が鎌に吸収され、2つのアクセサリーは1つの武器になった。

 槍を吸収したのは確かだが、鎌に変化は見当たらない。


(……なるほど、これなら戦いやすい!)


 白と黒の変身を維持したまま、手持ちの武器が鎌だけになったことで、龍華は戦いやすくなった。

 龍華は両手で鎌を持ち、黒の光を集約させる。そして自身を軸として鎌を数回転させ、周辺に立っていたプロキシーの胴体を切り裂いた。

 中には腹部のみを切り裂かれた個体もいたが、皮膚と筋肉を切られた影響で腸が外に出る。


(今度は槍!)


 龍華の思考を読み取り、鎌は白い光を纏い、1秒未満で鎌は槍へと変化した。

 武器が変わったことで龍華は戦闘スタイルを変更し、槍の特徴を最大限に活かす戦いを始めた。


(まさかアクセサリー同士が融合して、好きなタイミングで変更できるなんて……)


 龍華も、それを見ていた雪希も驚いていた。

 しかしアクセサリーの融合、形状変化に最も驚いていたのは、アクセサリーを作った張本人であるメラーフであった。


(ありえない……! いくらプロキシーの力を宿しているとは言え、アクセサリーそのものの形状を変えることなど……一体どう言うことだ?)


 アクセサリーは神であるメラーフよって作られたため、人間では「能力の使用と変身」までしかアクセサリーに干渉できない。

 戦闘による多少の形状変化、破壊などは十分に起こりうるが、所詮は"そこまで"。それ以上の干渉は不可能。

 しかし龍華は、メラーフにしかできないはずの「アクセサリーの形状操作」、「アクセサリーの融合」を使用し、恐らくは「アクセサリーの分離」も使用できる。


(まさか……プロキシーではなく神に近付きつつあるのか!?)


 アクセサリーに宿る「プロキシーの力」との同調率が高まれば高まるほど、そのプレイヤーはプロキシーに近い存在になる。元々同調率が高かった千夏も、最終的にプロキシーになり、紫の代行者であるローシャに近い存在となった。

 それを踏まえ、メラーフはこう仮説を立てた。

 龍華はアクセサリーに宿る「プロキシーの力」ではなく、アクセサリー本体を構成している「メラーフの力」と同調し、メラーフしか使えないはずである神の力を使った、と。

 人間もプロキシーも神に似せて作られたため、構造は異なれど本質は一応共通している。故に、神の紛い物である人間プレイヤーは、同じく紛い物であるプロキシーの力と同調できる。

 しかし、人間と神では本質が異なる。よって同調は基本的に不可能。人間である龍華が、神と同調するなどということはありえない。

 

(だが他に理由が思いつかない……と言うか、犬飼龍華が特別なのか? それとも僕が知らないだけで、人間は進化の過程で神との同調を可能としたのか? だめだ、分からない……!)


 メラーフは頭を抱える。

 しかしそんなことには目もくれず、龍華はプロキシーとの戦いを続ける。


(あともう少し……!)


 残りの個体数を確認しながら戦う龍華に、一際屈強な見た目のプロキシーが攻撃をしかける。

 成人男性以上に巨大な拳を、人間では再現不可能なスピードで突き出す。その拳は龍華の頭部目掛けて一直線に進む。


「……この私が、あんたみたいな雑魚の攻撃で死ぬとでも?」


 しかしプロキシーの拳は龍華の左手に止められた。

 変身により上昇した龍華の戦闘能力をもってすれば、プロキシーの全力を込めた鉄拳などは無意味だ……と言わんばかりの表情で、龍華はプロキシーを睨む。

 そして龍華は防いだ拳を押し返し、右脚に白、左脚に黒の光を集約させた。


「格が違うんだよ!」


 龍華は宙返りをして、左脚でプロキシーの顎を蹴り上げる。

 着地直後、龍華は時計回りに身体を回し、右脚で飛び後ろ回し蹴りを披露。そのままプロキシーを真横に蹴り飛ばした。

 プロキシーは地面に激突。蹴られた衝撃なのか、それとも激突の衝撃なのか、プロキシーの頭は粉砕され、出るものが色々出ていた。


(残り4体……と、もう終わったか)


 殺していない残りの4体を見る龍華。

 4体のプロキシーは、属性操作により隆起した地面に身体を貫かれ、血を吐きながら痙攣している。


「これで……終わり!!」


 隆起した地面はさらに形を変え、プロキシーの腹部から頭頂にかけて伸びた。

 プロキシーは少しの間痙攣を続けたが、4体ほぼ同時に死亡した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る