《9》 コンビプレイ

「「変身!」」


 沙織は黒い光に包まれ、日向子に白い光に包まれた。そしてそれぞれの光は弾け、変身した2人の姿をプロキシーと舞那の前で披露した。

 沙織と日向子は同じ形状の服を着ている。ジャケットとミニスカートを着用し、タイツの上からブーツを履いている。しかし沙織は黒ベース、日向子は白ベースと、それぞれの服の色は異なる。髪型も色と分け目を除けば、2人とも全く同じ。

 アクセサリーは全部で9色。中でも白と黒は同じ無彩色であるものの、陰と陽を思わせる完全な対極。それ故にアクセサリー内での扱いも特別なのか、武器と色、能力と分け目以外は全て同じになっている。


(双子……?)

「舞那、今双子みたいって思ったでしょ」

「一応言っておくけど、私達は双子でもなければ姉妹でもないから」


 図星を突かれた舞那だが、沙織と日向子も当初は同じことを思っていたため、舞那の思考を読むことができた。


「舞那は白と黒の能力、見たことある……わけないか。見てて、私達は似てても、能力は全然違う」

「私達の能力、ちゃんと覚えてね」


 沙織は鎌を、日向子は槍を構え、先程から殆ど動かないプロキシーに向かって走り始めた。


「まずは黒の能力!」


 突如、黒い光で身体を覆われた沙織は地面を蹴り、水中を泳いで移動するかのように空中を移動し始めた。飛んだからとはいえ、沙織の身体に羽が生えているわけではなく、これは黒のアクセサリーが持つ能力によるものである。

 黒の能力は飛行。自由自在に空中を飛行することができる。飛び道具を使うプロキシーが出現しない限り、黒の所有者はプロキシーの攻撃を受けることは少ない。

 プロキシーは空中に浮いた沙織に気を取られ、すぐ目の前にまで迫った日向子に気付かなかった。


「はああ!」


 日向子は白い槍でプロキシーを刺し、腹部にダメージを与えることができた。そのダメージは致命傷ではなくむしろ重症でもないのだが、これは日向子が能力を使用するために敢えて威力を軽減させていた。


「次に白の能力!」


 プロキシーは眼前で薙刀を掴んでいる日向子へと攻撃対象を変更し、鋭く尖った爪で日向子の腹部へと攻撃した。しかし、プロキシーの爪は日向子の腹部へは刺さっておらず、それどころか日向子の服すらも貫通できていない。

 プロキシーはようやく気付いたのだが、日向子は身体の表面に僅かだが白い光を纏っている。


「残念でした!」


 白の能力は硬化。自らの身体と着ている服、及びアクセサリーの硬度を自在に上昇させ、相手の攻撃によるダメージを極限まで軽減させることができる。

 プロキシーの爪の攻撃は、まともに受ければ即貫通している。しかし硬化能力により貫通を完全に防ぎ、ダメージもほぼゼロにまで抑えている。

 日向子はプロキシーが混乱している隙に薙刀を振り、プロキシーの脚を攻撃した後に腕を切断した。

 思わぬダメージを受けたプロキシーは、明らかに人間のものではない叫び声を発した。その声はさながら獣の断末魔のようにも聞こえる。


「これで終わり!」


 プロキシーが日向子に気を取られている間に、飛行していた沙織はプロキシーの背後に回っていた。そして沙織は円を描くように黒い鎌を振り、プロキシーの身体を横から切断。

 プロキシーを切り裂いた鎌は黒い残像を残し、傍観していた舞那の脳内にその光景を焼き付けた。

 身体が分断されたプロキシーは沙織を睨むように息絶え、砂へと変化して死を迎えた。


「さてと、どう? 私達かっこよかった?」

「……かっこいいどころか……すごい」


 沙織がプロキシーの目を引き、その間に日向子がプロキシーへと攻撃。

 プロキシーが日向子へと気を取られているうちに、今度は沙織がプロキシーに攻撃。

 恐ろしく息の合った戦いを見せられた舞那は息を飲み、目の前で繰り広げられる一方的な戦闘に魅入っていた。


「私も……2人みたいに戦えるかな?」

「んー……そのうち今の私達よりかは強くなるでしょ。まあ、その頃には私達も強くなってるけどね」


 沙織と日向子は舞那に歩み寄り、その途中で変身を解除して元の姿へと戻った。


「あ、そうだ。舞那が強いプレイヤーになれるように、これから私達と一緒に特訓しない?」

「……特訓?」

「舞那はまだ戦い慣れてないでしょ? だから私達と特訓して、いつプロキシーが現れても戦えるよえにしようってこと」


 沙織の予想は正しく、舞那は戦いに慣れていない。というか、変身すらまだしていない。

 前回は雪希、今回は沙織と日向子がいたからこそ生き残れたが、もしも舞那1人の時にプロキシーと遭遇すれば、舞那は高確率で敗北。或いは死亡する。

 沙織と日向子も暇を見つけては特訓をしており、互いに戦闘経験を積むことで強くなろうとしている。


「それはいいけど、その……殺したりしないよね?」

「当たり前でしょ。そもそも私達はプレイヤー同士の殺し合いは反対だし、神に等しい力なんて興味無い」

「そゆこと。じゃあ特訓するから場所移動ね。ついでに、プロキシーとかについていろいろ教えてあげる」


 街をブラブラする。という当初の目的を放棄した3人は、普段沙織と日向子が特訓をしているという場所に向かった。


 ◇◇◇


 一方その頃、


(っ! ちょっと距離があるけど……行かないと!)


 寄り道をせずに帰宅していた雪希は、沙織と日向子が交戦していたものとは別のプロキシーの反応を感知していた。

 プレイヤーは共通して、プロキシーの反応を感じ取り、プロキシーの場所を特定することができる。

 プロキシーが人間を襲い食事を始めると、そのプロキシーから半径1kmから2km以内にいるプレイヤーの脳内に、そのプロキシーがいる場所の光景が強制的にイメージされる。

 仮にプレイヤーがその場所を知らなくとも大体の位置は感知できるため、行動力にもよるが高確率でプロキシーと遭遇することができる。


(確かあの辺は小学生の通学路……この時間なら小学生はいないはず!)


 プロキシーの反応があった場所までは約700m。

 近隣の小学生が通学路にしている道があり、通学時間になれば小学生が列をなして歩いている。

 現時刻、小学生は学校にいるため、未来ある小学生が犠牲になることは防がれた。ただ、プロキシーの出現が通学時間に重なっていれば、今頃その場所は地獄絵図と化しているだろう。

 しかしプロキシーの反応があったということは、プロキシーが人を喰ったということである。さらに何人食したのかも分からないため、はっきりと地獄絵図を免れたとは言えない。


(もう少し……あの角を曲がれば!)


 雪希は地獄絵図ではないことを祈りながら、現場へと繋がる曲がり角を曲がった。


「っ!」


 現場にはプロキシーが食べ損ねた、おそらく成人男性であろう腕が落ちており、その周辺に大量の血液が飛び散っている。

 現場には黒いプロキシー……と戦闘中のプレイヤー。プロキシーと戦っているプレイヤーは紫色の髪をなびかせながら、華麗な動きでプロキシーの攻撃を回避。そしてプロキシーに僅かに生まれる隙を狙い、手に持った紫色のアクセサリー、チャクラムで攻撃。

 円盤状のチャクラムは外側が鋭利な刃になっており、攻撃した箇所へと確実にダメージを与えている。


(紫のプレイヤー……初めて見る人……)


 プレイヤーは両手で掴んでいるチャクラムに紫の光を集約。

 プロキシーの攻撃を回避しつつ、右手に持ったチャクラムを真上に投げ、左手に持ったチャクラムでプロキシーの膝を攻撃。

 膝を切断されたプロキシーはそのまま地面に倒れようとした……のだが、先程真上に放ったチャクラムが回転しながら落下。さらにチャクラムはプロキシーの後頭部に直撃、見事に刺さった。

 そしてプレイヤーは追い討ちをかけるように刺さったチャクラムを掴み、円を描くかのように腕を振ってプロキシーの頭部を縦に切り裂いた。

 プロキシーは砂へと変化、死を迎えた。


(すごい動き……そういえば、紫の能力って一体……)


 雪希が把握している色の能力は、今までに出会い、実際に見たものに限られる。紫のプレイヤーに遭遇したのはこれが初めてであるため、その能力は把握していない。

 雪希は紫のプロキシーと何度か相対しているが、二次色のプロキシーは能力を持たないため参考にならない。


(今は戦うべきじゃないよね……)


 雪希は逃げるようにその場から去った。

 紫のプレイヤーは雪希に気付いていなかったため、追いかけることなくその場から去った。

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