第23話 アリオ・フレイス
今日、公演が終わった後に女の子が控室にやってきた。
その子は俺の幼なじみで、知り合いだ。
長い付き合いになるから、色んな事を知ってる。
絵がすごく下手だって事や、料理がとても下手ヘタだって事。
それと優しくて、すごく思いやりがあるって事も。
俺はめったに転ばないし、怪我もしないし、病気にもならないけど。
たまに躓いたり、頭にこぶをつくったり、風邪をひいたりするとすごく心配してくれる。
自分が怪我したみたいに泣きそうな顔で手当てしてくれたり、びょうきになっちゃったみたいな顔で薬をわけてくれるんだ。
自分が大変な体質だからっていう理由もあるのかもしれないけど、そんなんじゃなくて、元から変わらない優しさを持っているんだと思う。
俺は、そんな幼なじみの女の子の事が好きだ。
その子の名前はアリシャ。
アリシャ・ウナトゥーラ。
お金持ちの家の子で貴族だけど、子供の頃も今も垣根を感じさせずに一緒に接してくれるから、身分なんて関係ない。俺にとっては特別な存在だった。
他の貴族は嫌な奴が多くて近づきたくないけど、アリシャは良い子だから別。
貴族の権力を無駄に振るったりしないし、平民の俺とも遊んでくれるんだ。
それに、一人の人間として性格が優しいし明るいから、種族とか身分とか関係なしに好きになれた。
耳とか尻尾とか触る時も、たまに他の人がやるみたいに無遠慮なのじゃないし、優しいし気持ちいいし、ちゃんと触って良いか聞いてくれる。
だから、好きだ。大好きだ。
ずっと一緒にいたいし、笑顔でいてほしいし、俺が笑顔にしてあげたい。
でも俺は、そんなアリシャに一つだけ良くない感情を抱いていた。
いけない事だと思いつつも、その黒い感情は止める事が出来なかった。どうやっても無くす事が出来なかった。
原因になるそれは、俺の体質にある。
もしかしたら、ある意味アリシャとおそろいになるのかな。
特別な何かの力を体に宿している者同士。
俺は子供の頃から、不運だった。
色んな事で遠回りしたり、やらなくていい事もたくさんやった。何かやりたい事があってもその邪魔が入った。そんな事が日常茶飯事だった。
だからいつも、何かをしたかったらそれをカバーする為に、血のにじむ様な努力をしなければならない。
人が簡単に飛び越えられる障害を、何倍もの時間を費やしていかなくちゃならなかった。
そんな境遇だから、小さい頃からずっと、アリシャの様な幸運な人間が妬ましかったんだ。
ただ良い家に生まれただけで、ただ優しい人に囲まれただけで、幸せになれる人もいるって……。
アリシャを見ていると、妬ましくなってしまう。
それが、良くない事だと分かっていても。
たまに不思議に思ってしまう。
アリシャは何で不幸な俺……アリオ・フレイスなんかと一緒にいるんだろうって。
何か裏があるんじゃないかって、本当にたまに、そう思ってしまうのだ。
それが間違った感情である事はよく分かっているのに。
裏なんてなくて、ただ一緒にいたいからいてくれてるんだって分かっているのに。
心の底では信じきれない。
そもそも。
アリシャが恵まれているのは、アリシャが悪いわけじゃない。
そもそも恵まれている事は悪い事なんかじゃないのに。
なんでこんな嫌な事ばかり考えちゃうんだろう。
周りの人たちは、俺の事明るい人間だって言ってくれるけど、本当はそうじゃないから罪悪感がわいてきちゃう。
ずっと、運が悪いと自覚してから、止められない。
そんな気持ちをなくす事ができない。
「アリオの前向きば性格がうらやましいわ」
そう言って、俺の気持ちなんて何も知らずに笑ってる彼女を引き裂いてしまいたくなる。
こんな事考える俺は、悪い子だ。
不幸になって当然だ。
もしかしたら、俺がそんな人間だから不幸になったのかもしれない。
元からそういう性格だったから、運が悪くなってしまったのかも。
だったら、幸せにならないほうがいいのかな。
ずっと苦しんでいた方がいいのかな。
こんな事考えてて……ごめんね、お嬢。
お嬢だったら、どう考えるかな。
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