第194の扉 ぷにっ
「早くリミッター解除できるようになりたいな」
月たちの自己紹介があった翌日。風花の家に向かいながら、翼が独り言を呟いていた。
太陽と月。抑え込んでいた力を解放した彼らは、どれほど強くなったのだろう。自分はあとどれだけ努力すれば、彼らの横に並べるのだろうか。
「今日も頑張ろう」
翼はグッと拳を握る。どのくらいの時間がかかるか分からないが、練習するしか道はない。
「あ、翼!」
そんなことを考え込んでいると風花の家に到着。玄関前には既に優一、美羽、結愛が集合していた。今日はこのメンバーでリミッター解除の練習である。しかし……
「横山さんその荷物どうしたの? すごく大きいね」
「んふふっ、何が出るかはお楽しみなの」
「……」
美羽は両肩に大きな鞄を下げている。これはきちんと練習ができるのだろうか。翼は苦笑いしかできない。
「なぁ、今日行くって桜木に伝えたよな? さっきから呼び鈴鳴らしても反応がないんだ」
「んぇ?」
翼が苦笑いしていると、優一が不審げに呟いた。今日翼たちが来ることは事前に知らせてあるのだが、何かあっただろうか。
「また猫でも拾ったか?」
優一が若干呆れ顔で呟く。
以前、翼と優一が桜木邸を訪ねた時にも、同じように呼び鈴に反応しないことがあった。あの時は風花が猫を拾い、太陽と喧嘩していたため、反応してくれなかったのだが、また猫でも拾ったのだろうか。
「おっ邪魔しまーす!」
玄関前で考え込んでいると、結愛が元気に扉を開け放ち、中へ突撃していく。彼女の行動に苦笑いを零しながらも、翼たち3人も続いて入って行った。
リビングに入ると……
「「スゥスゥ」」
二人仲良くお昼寝中の風花と太陽の姿が。お手てを繋いで、気持ちよさそうに熟睡中である。彼らが呼び鈴に反応できなかったのはこれ故だろう。
「@#&!・=~?」
彼らの姿を見た途端、声にならない悲鳴を小声で上げて、翼がうずくまった。恋するモザイクボーイには刺激が強すぎたようだ。モザイクになってしまった顔面を両手で隠しこんでいる。
「疲れてたのかな、珍しい」
モザイク翼はさておいて、優一たちは太陽まで眠っているという珍しい光景を目に焼き付ける。
太陽は先日月の封印を解いたばかり。身体に負担がかかっているのかもしれない。このまま休ませてあげた方がいいだろうか。
「可愛い! ほっぺ触りたい!」
「あ、結愛も触るぅ!」
しかし女子二人は太陽の頬っぺたをプニプニと堪能し始めてしまった。しばらく触っていると、もちろん太陽の目がぱちりと開く。
「あ! みなさんおはようございます。しまった、もうこんな時間でしたか、すみません」
「もっと寝ててもいいよ、頬っぺた触っていい?」
「良くありません、起きます」
美羽と結愛の指をジトッと睨みながら、太陽は身体を起こす。彼の頭に寝癖がついてしまっているが、可愛いので教えないでおこう。
「姫様、翼さんたちが来ましたよ。起きてください」
「んー」
寝癖太陽が風花の身体を揺すり、彼女の目を覚まさせる。風花はまだ眠たいようでしばらく「んーんー」と唸っていたが、しばらくして瞳が開いた。
「たぃよぅ? おはよ」
「おはようございます」
とろんとした瞳で太陽のことを見つめる風花。そして……
ぷにっ
「ふふ、くすぐったいです」
「おはよぉ、おはよぉ」
「おはようございます」
「つき、つっきー、つぅっきー、おはよ」
「変な呼び方すんなよ、おはよ」
頬をぷにっと当てて、すりすり始めた。何をしているのだろう。微笑ましい光景なのだが、いきなり見せられた優一たちはフリーズしてしまった。
「あ、これは風花が寝ぼけている時にやる挨拶だ。気にすんな」
全員がフリーズしていると、気がついた月が説明してくれた。
風花は寝ぼけていると人肌恋しくなるのか、頬をすりすりしてくるらしい。小さい頃からの癖なのだそうだ。
「あれ? みんないる?」
月の頬を堪能し終わった風花が顔を上げると美羽、結愛、優一の姿を発見。
「美羽ちゃん、結愛ちゃん、おはよ」
「「おはよう、風ちゃん」」
美羽と結愛にも、ぷにっと頬を押し付ける風花。そして……
「成瀬くんもおはよ」
「……お、はよ」
隣に居た優一の服をグイっと引っ張り、自分の頬の位置まで屈ませると、美羽たち同様、ぷにっと頬を押し付けた。
「あ、相原くんも居る」
そして、リビングの入り口で悶えていた翼の姿を発見。トコトコと彼の元へ歩いていき……
「相原くん、おはよ」
「んぇ?」
うつむいていた翼の顔を掴んで、自分の頬にぷにっと押し付けた。
ぷにっ、ぷにっ、ぷにっ……
「あぁぁぁぁ! 熱っっっい!」
翼の頬をぷにぷにしていた風花だが、悲鳴を上げながらズサーと後ずさる。先ほどまで風花が押し付けていた頬が、ほんのり赤くなってしまった。
「ぷにぷにぷにぷに」
ぷにぷにしか言わなくなった翼が、顔を真っ赤にしてグルグルと目を回している。風花の行動に頭がショートし、体温が上がったのだろう。風花が熱さに耐え切れず、悲鳴を上げたようだ。
「何事!?」
「風ちゃんはこっちで頬っぺた冷やそうね~」
原因である風花は頬の熱さで、ぱっちり目が覚めた。慌てている彼女の手を引いて、美羽と結愛が消えていく。
「翼、しっかりしろよ」
「大丈夫ですか?」
「ぷにぷにがぁ、ぷにぷにでぇ、ぷにぷにだった」
ほんの少しだけ語彙力が回復した翼。しかし、完全復活まではまだかかりそうである。
_______________
「ぷにぷにマシュマロ頬っぺ最高」
「翼キモイぞ」
「え、声に出てた?」
ぷにぷに翼の語彙力が何とか回復し、相原翼に戻った頃、気持ち悪い本音がポロッと口から出てしまった。本人は無自覚で漏らしたようだが、顔だけでなく口まで緩くなってしまったらしい。風花には聞かれないようにしてほしいものである。
「風ちゃん! ハロウィンパーティーをしよう!」
「「ハロウィンパーティーとは?」」
優一がため息を漏らしていると、美羽が高らかに宣言した。彼女が持っていた大きな荷物の中身が分かったような気がする。
しかし、風花と太陽がキョトンと首を傾げた。言葉の意味が分からないようだ。
「風の国にはなかったのかな?」
「初めて聞くの」
「初めて聞きます」
「ハロウィンって言うのはね、お菓子を……あ……」
風花たちに説明しようとした翼が、ピタリと固まった。彼は思い出してしまったのだ。ハロウィンと言えば、お菓子を配る日。そして、風花のお菓子が配られれば、世界が終わるということを。
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