第179の扉 見つけた正体
「およ!」
「諸君、ご苦労である!」
「お疲れぇ~」
午前の営業が終わり、午後のシフトに入っている彬人たちが教室に戻ってきた。結愛は早速着替えて、およおよ言いながら騒いでいる。
「ふはっ♪」
そして彬人は相当ご機嫌なようで、アホ毛をぴょこぴょこさせながら、鞄の中にゲームを収納していた。そんな様子を颯がニマニマ眺めているも、当然彬人は気づかない。
漆黒の堕天使彬人と素直になった一葉。この二人の結末はいつになるのだろうか。颯がのほほんと眺めていると、後ろから黒い影が。
「行きましょうか。本城さん、鈴森さん」
「「……」」
「お返事は?」
「「はぃ」」
ブラック寸前のうららが、強制的に彬人と颯を連行。先ほど翼と優一が逃げ出したので、危険人物を先に仕留めるために動いたようだ。流石はうらら様である。
「ねぇ、一葉ちゃん。その髪留め可愛いね」
「っ!?」
そんな中、にっこりと笑った美羽が一葉に話を振る。一葉の髪には鍵の形をした髪止めが。そして、彬人とのことを思い出したのだろう。頭から煙が噴き出した。
「べ、別に、ここ、これは、あいつが、とか、そういうことじゃなくて」
「んー?」
「い、今使ってるやつが、古いからな訳であって」
「一葉ちゃん、一葉ちゃん」
一葉が必死に言い訳を並べていると、いたずらっぽく笑った美羽が口を開く。
「私は髪留め可愛いね、しか言ってないんだけど、本城くんからのプレゼントなの?」
「@#&+《"&っ!?」
「プ・レ・ゼ・ン・ト」
「美羽!!!」
「んふふっ」
「バカバカバカ!」
一葉は真っ黒な笑顔をしている美羽を、ポカポカと叩く。美羽は何かと一葉を掌でコロコロしてくるのだ。今後も転がされてしまうことだろう。彼女には勝てる気がしない。
「はぁ……」
一葉はため息をつきながら、うららに連行されていく彬人をチラリと見てみる。
『俺には無理だろうな』
夏旅行で言われた言葉。文化祭で急展開する男女ペアも多い中、その空気に乗じて聞き出そうと思っていたのだが………
「今日は、やめておく」
今それを聞いてしまうと、またあの時のように悲しそうな表情をさせる気がする。今日は折角の文化祭。漆黒の堕天使から深淵がポンッと抜けるほど、彼は楽しんでいるのだろう。純粋無垢な今の彬人に、あんな顔をさせたくない。彼女の戦いは長期戦。ゆっくり彼との距離を詰めることを決めた。
_______________
「いい匂いがする!」
翼、風花、太陽の三人は校庭に並んだ出店に来ていた。焼きそば、お好み焼き、リンゴ飴、カステラなどなど。たくさんの店が並ぶ中、風花が匂いに誘われ一つの店の前へ旅立っていく。そこは……
「たこ焼きだね」
「「タコヤキ?」」
風花と太陽は翼の言葉にキョトンと首を傾げた。風の国と日本では食文化が違うのだろう。聞いたことのない料理だそうだ。翼が詳しく説明すると、風花の目の輝きが増した。風花のキラキラの瞳に見つめられて、翼の足元がふらつくも隣の太陽が支えてくれる。
「すごいの! 丸いの!」
「向こうで座って食べようか」
「私は飲み物を買ってきます。先に食べていてください」
風花がキラキラとたこ焼きを見つめる中、太陽は飲み物を買いに出かけていく。と、いうことでベンチには翼と風花の二人きり。
ヤバいヤバいヤバい。また二人きりだよ。最近多くないか、この展開!
太陽くん早く帰ってきてよ。僕、もう限界……
「美味しい!」
翼がグルグルと考え込む中、パクッと一つ口に運んだ風花から感動の声が漏れる。頬っぺたが落ちるのではないかというくらいの、にっこりスマイルを浮かべていた。そんな彼女の様子を見た翼の顔が、またモザイク寸前である。
んぁぁぁぁぁ! なんなの、本当に可愛いな、もう好き!
絶対頬っぺたプニプニだよね。ツンツンしたい! 触りたい!
この前口を塞いだ時も柔らかかったし、ヤバいよね、この人。本当に好き、大好き、食べたいくらい大好き!
「相原くん、食べて!」
……食べて、とは? ん? 僕、心の声口に出してた? え、いいの? きみを食べていいの? いいなら、いただかせていただくけども?
ん? でも、待って。もうそんなことを理解できるようになったの? え、というか、誰がそんなこと教えたの?
「ちょっと、待ってね」
風花はそう言うと、たこ焼きをふーふーと冷まし始めた。
あ、たこ焼きか……なんだ、たこ焼きね、うん、たこ焼きだよね。
……ん、知ってたよ、僕。桜木さんはそんなことを言う子じゃないもんね。分かってたんだ……
え? 別にショックじゃないよ。うん、だってそういう意味の食べてじゃないって、分かっていたからね。うん、大丈夫。
「はい、どうぞ!」
風花がニコリと微笑みながら、翼の口元へたこ焼きを近づけてくれる。
あ、ちょっと待って。これって、かの有名なアレなの? あのドラマとかでよくカップルがやっているアレ?
ど、どどど、どうしよう。食べたい、食べたいけど、食べたら僕は本格的にモザイクになりそう……
「ん?」
翼が口を開けてくれないので、風花が不思議そうに首を傾げた。彼女はただ翼にもたこ焼きの美味しさを共有してほしいのだろう。純粋な瞳でたこ焼きを差し出している。
「ゴクリ……」
この瞳を前に食べないという選択肢はあるだろうか。答えは否である。
折角のあーんチャンスなのだ。この機会を逃すわけにはいかない。そして、風花のトラウマになるので、モザイクになる訳にもいかない。
翼は表情筋に精いっぱいのエールを送り、たこ焼きを食べようと口を開いた。
パクッ
「どう?」
「今まで食べた中で一番おいしいたこ焼きだよ」
「先輩たち作るの上手なんだねー」
風花はそう言うとたこ焼きをもう一つ頬張って、もぐもぐとし始めた。そして、翼は表情筋が限界を迎え、風花に背中を向けモザイク翼である。
_______________
「この感じは……」
一方その頃、太陽は風花たちの飲み物を入手し、二人の元へ戻ろうと歩いていた。しかし、その途中でカフェ入店の時に感じた違和感を再び覚える。
辺りを見回してみるも、変な所は見つけられない。楽しそうに話している生徒、保護者。賑やかに駆け回っている子供たち。平和な光景そのものであった。
「気のせいでしょうか」
探ってみるも先ほどと同様に違和感の正体は掴めない。しかし胸騒ぎは消えず、嫌な予感もする。この学校の中に『何かが居る』それを知らせるように黒い感覚が渦巻いているのだ。
「……」
目を凝らしながら観察していると、太陽から逃げるように遠ざかる一つの影が。
「どうしてあなたがここにいらっしゃるのですか?」
太陽が影を追っていくと、その人物は校舎裏までやってきた。そして、放たれた太陽の言葉にびくりと肩を揺らす。
「カフェに入った時に感じた感覚は、あなたでしたか」
太陽がカフェに入店したときに感じた物。それは京也のように禍々しくて、真っ黒な魔力。隠してはいたものの、その強力な気配は容易に全てを隠し通せるものではない。
「恐らくまだ翼さんたちも気がついていないでしょうね。一番早く気がつきそうな優一さんは、決定的な瞬間に私が気絶させてしまいましたし……」
目の前の人物は上手く自分の禍々しい気配を隠しこんでいた。今まで同じ教室で時間を共にしてきた翼たちが、誰一人としてその気配を感じられない程に。
しかし、太陽が敏感に気がつくことができたのには理由がある。
「あの時、扉の一番近くに居たのはあなたでしたね? 京也さんが現れたのにも、これで納得です」
太陽が暴走した時、なぜか分からないが現れた京也。彼は真っ黒な扉を通って出現している。その魔法は太陽と同じく扉魔法の力。目の前の人物が京也を強制的に呼び出したのだろう。
そして、太陽は同じ魔法の使い手として、翼たちよりも気配を感じやすい部分があったようだ。彼が気配に気がつけたのはそのためである。
「京也さんは扉魔法を使えませんもんね。それにも関わらず、真っ黒な扉を通ってきた……」
京也が日本に渡ってくる方法は、彼自身の膨大な魔力を使って無理矢理世界を移動してくることのみ。その代償として地面を抉るなど、自分の存在を大きく示して登場していた。
ただそれは、彼の近くに謎の少女がいない時の移動方法である。
「さて、あなたの目的はなんでしょうか」
「愛梨さん」
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