第8章  夏休み

第155の扉  夏だぁ! 休みだぁ! 海だぁ!

「「夏だぁ! 休みだぁ! 海だぁ!」」


 アホ毛コンビ、おっと失礼。彬人と結愛が叫んでいる。

 そう、ここは海である。青い海、白い砂浜、真っ青な空。


「流石は神崎グループ。プライベートビーチがあるとは」

「おほほ」


 現在夏休み。翼たち10人は美羽の発案で、海水浴に来ていた。1泊2日の夏の思い出である。

 そして、ここは神崎グループが所有するプライベートビーチ。そのため翼たち10人の他には人がいない。


「「ほわぁ!」」


 海を見た風花と太陽の口から同時に声が漏れる。二人とも海に負けないくらいのキラキラの瞳だ。


「風の国に海はないんだよね?」

「ありませんです!」

「うん! 初めて見るの!」


 二人ともテンションが上がっているようだ。太陽の話し方がおかしくなっている。そんな彼らを見ていると、こちらも頬が緩んだ。


「着替えに行きましょうか」

「うん!」


 うららに連れられて風花が消えた。そう、ここは海。海と言えば……


「水着だよねぇ」

「!?」


 確信犯颯の攻撃により、翼がノックアウト。鼻血を噴き出して倒れた。想像しただけで倒れていては、実物を見た時に死ぬのではないだろうか。









 一方女性陣


「スタイルお化けやん」

「うふんっ! まぁそれほどでもあるかな」

「ちょっとは謙遜しなさいよ!」

「まぁまぁ、お姉さんもいい体しているじゃないですか」

「ちょ、どこ触って、あぁあぁぁ」

「結愛も触るぅ!」


 水着に着替えた美羽と一葉と結愛が、何やら楽しそうなことをやっている。

 美羽は黒色のビキニタイプの水着を身に着けており、彼女の白い肌と対比してセクシーな仕上がり。そして、黒が彼女の細い体を更に引き締めて見せるので、タダでさえスタイルお化けな彼女の身体が、化け物が如く輝きを放っていた。

 対する一葉は、胸元にフリルのある、セパレートタイプの水着。彼女は、胸は美羽程発達していないものの、腰が細い。胸元のフリルが胸部をカバーしているので、腰の細さが際立っていた。

 そして、結愛はワンピースタイプの黄色の水着。至る所にリボンがついており、何とも女の子らしい水着である。そして、水着から覗く長い手足が魅力的。


「下着?」

「いえ、水着ですわ」


 賑やかな三人を眺めて、水着を初めて見る風花から疑問が漏れた。

 風の国には海がないようなので、彼女には美羽たちの姿が下着に見えたのだろう。うららが速攻で情報を訂正した。


「では、風花さんも選びましょうか」


 水着初体験の風花はもちろん所持していない。そして、神崎グループの力を総動員し、各種水着を彼女のために取りそろえたのだ。

 風花の目の前には形も様々、色とりどりの水着たちがズラーと並んでいる。


「どうやって選ぶの?」

「デザインが好きなものや、色で選ぶのがいいですわね。風花さんの好きな色は何色ですか?」

「ピンク!」

「では、このあたりですかね」


 うららは風花を連れてピンク系統の水着が集まっている所へやってくる。ワンピース型、ビキニタイプ、パレオなどなど。よく集めたなという種類の水着が並んでいる。流石は日本トップの神崎グループ。

 風花はキラキラと目を輝かせて選んでいたのだが、うららがふと疑問を口にする。


「ピンクが好きなのには、何か理由があるのですか?」

「桜と同じ色なの」

「あぁ、苗字も桜木ですわね」


 風花の出身国、風の国。風の国の中心には大きな桜の木があり、毎年満開の桜を咲かせてくれるようだ。国民たちにも愛される桜の木は、風の国を象徴する国木である。


「あ……」

「どうしましたか?」

「そう言えば……」


 穏やかな微笑みで桜の木のことを話していた風花だが、その動きがピタリと止まった。


















 一方男性陣


「なぜ裸なのですか?」

「着てるじゃん」

「これが普通なのですね」


 着替え終わった太陽が疑問を発していた。彼も風花と同様、水着初体験。戸惑っていたようだが、みんながみんな半裸なので、納得したようだ。


「女子っていつも着替え遅いよな」


 優一がポツリと呟いた。男子は全員着替えが終わり、砂浜にテントを組み立てたり、浮き輪を膨らませたり、雑用を押し付けられている。

 と、いうことで優一は機嫌が悪い。しかし、文句を言いながらもきちんと仕事をしてくれるのは彼のいいところである。彼はすでに浮き輪を3人分膨らませていた。


「そう言えば、女性陣はどのような物をお召しになるのでしょうか?」


 太陽が小さく疑問を呟く。その発言を聞き逃さず、優一と颯が黒い笑顔を張り付けた。


「そうか、気になるか。よし、お兄さんたちが教えてやろう」

「え、何ですか?」

「大丈夫だよぉ。一緒に大人の階段を登ろうねぇ」


 がっちりと両側を拘束されて、太陽が拉致されていく。翼は苦笑いしながらその背中を見送り、彬人は『南無』と合掌を捧げていた。


「今どきはスマホがあれば、何でも分かるんだ」

「すまほ?」

「まあまあ、百聞は一見に如かずっていうしな。ほれ」

「!?」


 優一から携帯を手渡され、画面を見た太陽の顔がボンッと音を立てて赤くなった。


「こここ、これなのですか? 女性用の水着とやらは!?」


 太陽がスマホを手にプルプルと震えている。落としてしまうのではないか、というくらいにプルプルと震えてらっしゃる。


「ほとんど、布がありませんです!」

「ふふっ、んふっ、反応が……ふふふっ、最高すぎる」

「こんな布面積ではだめですよ! 破廉恥です! 乱れています!」


 隣では颯が笑い転げているのだが、太陽は今それどころではない。顔を真っ赤にして、携帯を握りしめていた。

 そして、瀕死寸前の太陽を仕留めようと、優一が動き出す。


「さて、太陽」

「?」

「お前は今、その水着を見て誰で想像したんだ?」

「!?」


 太陽の顔が更に真っ赤に染まり、頭から煙が出てしまった。


「いえ、わわ私は想像など、めめめ滅相もごじゃりませんです」

「また言葉おかしくなってるぞ。ほれほれほれ、誰だよ。言ってみ?」

「やっぱり桜木さんかなぁ? 前に抱っこした時、すごく細かったなぁ」

「違います! 何も考えてなどおりませんです!」

「んー、じゃあ横山か? あ、藤咲か?」

「佐々木さんと神崎さんもいいよねぇ」

「あぁぁぁぁぁ」


 優一と颯が次々と女性陣の名前を出してしまうので、太陽がついに崩れ落ちた。頭から煙を出して、放心状態である。


「あー、面白かった」

「ふふふっ、俺、ふ、死ぬかもしれない。んふふっ、苦し……」


 二人は満足したようで、放心状態の太陽を残し、再び浮き輪を膨らませ始めた。


「あの二人も混ぜるな危険だよね」

「南無」


 苦笑いが止まらない翼。彬人と結愛に始まり、混ぜるな危険人物が多すぎるのだ。今後も化学反応が起こってしまうだろう。彼らの黒い微笑みには恐怖を覚える。


「太陽くん、大丈夫?」

「ぁぁぁ」


 相変わらず太陽は煙を出して真っ赤。翼の声にも反応してくれない。翼たちより年齢が高い彼だが、あっち系への免疫はなかったようだ。可哀想である。


「よしよし、大丈夫だからね」


 翼は太陽の背中を撫でることしかできない。しかし、この後痛い目に合うことを彼らはまだ知らない。

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