第147の扉 伏線
「ぶへっ!」
三人が立ち上がったタイミングで、彬人の身体が宙を舞った。そして、そこには
「ちょっと、あんた。何風花に変なことをしてるわけ?」
指をポキポキと鳴らしながら、一葉が仁王立ちしている。その後ろにはギロリと目を光らせる美羽の姿も。彼女たちは用事が終わり、今風花の家に到着したようだ。到着した早々、彬人が風花を押し倒している場面を目撃し、慌てて吹き飛ばしたらしい。
「相原くんたちも何呑気に眺めてるの?」
美羽がのほほんとしている翼たちを睨む。
「申し訳ございません」
「だって、桜木さんが楽しそうなんだもん」
「だって、彬人が止まらないんだもん」
ゴツン×2
「「痛い……」」
「風ちゃん大丈夫?」
「ふふふっ、本城くんね、上手なんだよ。すごく笑っちゃうの。ふふっ」
心配する美羽をよそにやはり風花は楽しそう。彼女のそんな様子を見て、美羽の口からため息が漏れた。なお翼と優一の頭の上にはたんこぶができている。
「一葉、邪魔するなよ! 桜木が喜んでいるからよいではないか」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「解せぬ!」
一方、彬人と一葉は対峙しながら口論を繰り広げていた。
今回の彼の行動は彬人に恋する一葉にとって、複雑な感情を持つ行為。本人は何の意図もしていないし、やられた風花も純粋に楽しかったようなので、問題はないのだが。他の女子だったらどうなっていたことだろう。
彬人は誰にでもああいうことをするのだ。一葉としてはもやもやとした感情になる。しかし、彬人は一葉の気持ちには気がつかず、ぷくぅと頬を膨らませていた。
「はぁ、あんたは本当に……」
一葉はやっと自分の中の気持ちと向き合った。彬人のことを好きだというこの気持ちに。しかし、素直になった途端にこれである。彼女の苦労は今後も続くことだろう。
「あ、みけちゃんだ!」
一通りの説教が終わった後、庭へとやってきた三毛猫に風花が駆け寄っている。この猫は以前太陽と風花の口論の中心になった猫なのだが、何やら不思議な雰囲気のする猫だった。
「こんにちは」
「ニャー」
人の言葉が分かるのではないか、という位に返事をしてくれる。以前のお別れの時に風花が『また遊びに来てね』と声をかけたらこうやって、やってきた。ごく普通の猫に見えなくもないが、何か違うのだろうか。
とりあえず、今のところは風花と楽しそうに戯れているだけなので、問題はないだろう。
「あれが、大嫌い事件の猫ちゃんか」
「お恥ずかしい……」
美羽の言葉に太陽が恥ずかしそうに頭を掻いた。何かと大人な太陽だが、やはり弱点は風花。『大嫌い』の言葉はかなり殺傷力が高いらしい。
「みけちゃん」
「ニャー」
風花がみけちゃんを膝に抱きかかえ、戯れている。彼女が居る場所に危険は付き物。しかし、こうやって小さな生き物と遊ぶ時間も大切である。
可愛らしい一人と一匹に全員釘づけだったのだが……
「うわ!?」
「姫様!」
「桜木さん!」
ボンっという破裂音と共に、みけちゃんを抱いていた風花が煙に包まれる。そして、煙が消えると……
「んぇ? なんで、私……」
「ぐはっ」
風花の身体が3歳くらいに幼児化していた。彼女の姿を見て、翼が吐血する。
頬っぺたプニプニで、小さな手と足。くりくりのお目目。恋するピュアボーイには刺激が強すぎた。ちなみに服も一緒に小さくなっているので、アニメや漫画でよく見るようなポロリはしていない。
「わぉ、風花可愛い!」
「キャー」
一葉が風花を抱きかかえて、振り回し始めた。風花はアトラクション感覚で楽しいのか、ニコニコ笑顔で振り回されている。二人の少女の周りにふんわりと花が舞う。しかし……
ボンッ
「「わっ!?」」
突然二人の身体が爆発音と共に煙に包まれた。煙が消えるとそこには
「えぇ……なんで藤咲まで」
「一葉ちゃん、可愛い! 一緒だね!」
「うわー、びっくりしたなぁ」
風花と同様に幼児化した一葉がちょこんと座っていた。頭を抱える優一は気に留めず、本人たちは呑気にはしゃいでいらっしゃる。彼女たちの身体に何が起こっているのだろう。
「どういう仕組みだ?」
「触れると幼児化するのでしょうか?」
先ほど一葉は幼児化した風花を振り回して、今に至る。接触が魔法の発動条件かもしれない。しかし、太陽の言葉を聞いた優一がクククッと黒い笑い声を響かせた。
「よし、彬人。藤咲を抱け」
「ふはっ! 俺が激しく抱いてやる!」
優一の言葉を聞いて、彬人のアホ毛が楽しそうにぴょこぴょこと動き出す。彼は小さい子と遊べるとあってテンションが上がったようだ。にっこり笑顔で一葉の方へ歩みを進める。
「あんたたち言い方考えなさいよ!」
優一たちの言葉に一葉が文句を言いながら逃げ出した。彬人は無自覚だが、優一はいろんな意味が分かって発言している。彼の真っ黒笑顔が輝いていた。
しかし、今の一葉は子供サイズ。歩幅も小さければ、足も遅い。彬人は普通に歩いているだけなのに、どんどん距離が縮まっていき、ついには壁まで追いやられてしまった。
「来ないでよ!」
必死に手をぶんぶんと振り回して、最後の抵抗を試みる一葉。そんな彼女の様子を見て、元気に跳ねていた彬人のアホ毛がしゅんと下がった。
「一葉、俺に抱かれるのはいやか? 翼か太陽に代わってもらおうか?」
「うぅ……」
苦しそうな声が彼女から漏れる。優一が変な言い方をしたので、つい逃げ回ってしまったが、別に嫌ではないのだ。彼は一葉が彬人を嫌がっている、怖がっていると思っているのだろう。言葉に詰まっている一葉の様子を見て、彬人が優しく問いかけた。
「どうしたい?」
シュンとアホ毛を垂らしながら、しゃがんで一葉と目線を合わせてくれる。彬人の純粋な瞳が一葉を射抜いた。こんな目をされては、素直にならざるを得ない。
「ぁ……彬人、が、いい」
一葉の言葉を聞いて、彬人の顔に花が咲く。すぐにでも抱き上げようと、手を伸ばすかと思いきや……
「おいで」
一葉を怖がらせないように、そっと手を差し伸べた。彼のその動作で一葉の顔が真っ赤に染まる。
「あいつ無自覚なのが恐ろしいよな」
「本当に……」
彬人の言動に美羽と優一が頭を抱えた。あまりにも一葉が不憫である。彬人の真意はどこにあるのだろうか。全く分からない。
さて、彬人が無事に一葉を抱え込んだのだが、彼の身体には全く異変が起こらない。
「ふはっ! 俺はやはり無敵なのだ。ははははは」
「馬鹿には魔法が発動しないのかもな」
優一の発言に彬人の頬がぷくぅと膨れる。しかし、接触が魔法の発動条件と思ったが、違ったようだ。
「女性だけに発動するのかもしれませんね」
太陽の呟きを聞き、美羽が風花を抱えようと動く。ちなみに一葉はいまだ彬人の腕の中で真っ赤である。
「「のわっ!?」」
ボンッという破裂音と共に、見事美羽が幼児化した。どうやら女性が触れると幼児化するようだ。
「みけちゃん可愛いね」
「ふわふわだね」
「肉球プニプニだ」
男性陣が対応策を考える中、ちびっ子化した女性陣は庭で三毛ちゃんと戯れていた。
「呑気な奴らだな」
優一が頬づえをつきながら呟く。あの後、翼、優一、太陽も女性陣に触れたのだが、やはり幼児化しなかった。魔法の発動条件を女性だけとしているのだろう。
「でもなんでなのかな」
「ふ、また深淵の覇者の仕業か?」
訳)京也くんがまた何かやらかしたのでしょうか?
今女の子たちは3歳児。美羽と一葉は魔法を使えない。風花は3歳当時も魔法を扱えたため、威力は落ちるものの扱うことができる。しかし、無力化が目的なら女性限定ではなく、男性陣にも魔法をかけなければ意味がないだろう。
翼たちが頭を抱える中……
「おや? チビたちの様子が」
「ポ○モンみたいに言うなよ」
彬人がチビたちの異変に気がついた。
翼たちが駆け寄ると、全員目をこすってトロンとした表情をしている。時刻は今15時。通常の三歳児ならお昼寝の時間なのだろう。
「桜木さん、眠いの?」
「んー」
「一葉、こっちおいで。子守歌でも歌ってやろう」
「んー」
「横山、あんまり目こすると赤くなるぞ」
「んー」
眠そうな彼女たちはそれぞれ男性陣の腕の中に納まる。それと同時にコテンと眠ってしまった。みけちゃんと戯れて疲れたのかもしれない。
「皆さん、こちらへ」
太陽が布団の準備をし、彼女たちを寝かしつけてくれる。そんな彼らの背中をみけちゃんが見送っていた。
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